映画『燃えるドレスを紡いで』:地球にとってファッション産業は害か? デザイナー中里唯馬が考える衣服の未来
世界中の服が巨大なごみの山に
半年に1度のコレクションを絶えず作り続けなくてはならない中、22年7月に22-23秋冬コレクションのショーを終えると、すぐに23春夏の準備に取りかかり、その合間の10月にケニアへと飛び立った。 首都ナイロビの中心街から近いギコンバ市場。中古衣料をぎゅうぎゅうに詰め込んでパックした4、50キロの塊がコンテナに積まれ、大量に世界各地から送り込まれる。中身を選別し、使えるものは縫製し直すなどして販売されるが、その端切れや売り物にならなかった服がこれまた大量に投棄される。 中里と撮影クルーは、マーケットを通り抜けて、その最終処分場を訪れた。うず高く積み上がった衣服の山が見渡す限りに広がり、自然発火してあちこちでぶすぶすと煙を上げている。ハゲタカとコウノトリの合いの子のような不気味な鳥たちがごみをついばむ光景は、まさにこの世の果てを思わせる。 事前のリサーチで予備知識があったはずの中里も、現実に自分の目で見て言葉を失った。その動揺がスクリーン越しに痛いほど伝わってくる。映像では表せないとてつもない異臭も絶望感に追い打ちをかけたという。 「自分でも正直あそこまで落ち込むとは思っていなかったです。これをどう消化して、目の前のコレクションに落とし込んだらいいんだろうと。あの体験を無視して別のコレクションを発表することはできませんでしたから。目の前のものに何かぶつけたいという思いがありつつも、どうそれをまとめていいのかが分からない。でも(翌年1月のパリコレまで)もう2カ月しかない」 出発前すでに動き出していた次のコレクションのプランを白紙にすることは避けられなかった。だがその代わりに何を提示すればいいのか。ファッションとは、絶え間なく古いものを捨て、新しい流行を作り出すことで成り立っている。そのあり方そのものを限られた時間で問い直すという、あまりにも難しい課題を突き付けられた。 「しかも隣には関根監督がいて、絶えず問いを投げかけてくる(笑)。単なる密着取材を超えて、クリエイターである監督に常に見つめられ、自分が悩み、葛藤している姿もさらけ出さなければならない。かなり大変でもあり、特別な体験、時間でした」