『ゴールデンカムイ』でも大活躍! アイヌにとって「舟」が欠かせない、最も重要な交通手段だった理由
小刀と木などを使い、その場で作る「即席舟」
4巻30話には、舳先から飾りを下げ、帆を掲げた、ちょっと別の形の舟が描かれます。22巻216話にも同じタイプの舟が出てきます。 これは海用の舟で、イタオマチㇷ゚「板綴舟(いたつづりぶね)」と呼ばれるものです。イタ「板」オマ「ある」チㇷ゚「舟」ということで、丸木舟を一番底のベースにして、その縁(ふち)に穴を開けて板を綴り合せ、舟べりを高くして、多少の波があっても水が入らないようにしたものです。 海の上では竿(さお)を使って漕ぐことはできないので、カンチ「車櫂(くるまがい)」を利用します。5巻41話で白石たちが漕いでいるのがこれですね。舟べりにタカマという棒が突き出していて、櫂の手元近くにある穴をその棒に通して、それを軸にして漕ぎます。 カンチというのは日本語の「舵(かじ)」がアイヌ語に入ったものと思われますが、舵ではなくこの車櫂を指しているということが、すでに秦檍丸(はたのあわきまろ)の『蝦夷生計図説(えぞせいけいずせつ)』(1823年)に出てきます。 また、舟の両側に棒を立て、その間に帆を張って風を受けて進むこともします。古い絵ではこの帆は蓆(むしろ)を利用しているように描かれていますが、アイヌ語では帆のことをカヤと呼び、樺太では魚皮衣のこともカヤというので、古くは魚の皮をつなぎ合わせたものを帆として使っていた可能性もあります。 もうひとつ、10巻93話では、キロランケが白石救出の時に舟に乗っていきますが、これはヤㇻチㇷ゚というもので、ヤㇻ「樹皮」でできたチㇷ゚「舟」という意味です(実際には、小さいㇻ行の音はタ行の前でッに替わりますので、ヤッチㇷ゚と発音されます)。その名のとおり、木の皮やブドウづるなど、その場に生えているもので作る臨時的な舟です。 マキリ「小刀」やタシロ「山刀」を持っていれば、木を切り倒したりしなくても、その場で舟が作れてしまうということですね。
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