フジテレビ「日本シリーズ取材パス没収」をなぜNPBは説明しないのか…元テレ朝弁護士が疑義
日本野球機構(NPB)が、プロ野球の日本シリーズ第1、2戦の取材パスをフジテレビから没収していた件で、その理由として、フジが日本シリーズと同時間帯に大谷翔平選手(30)らが活躍した米・大リーグ・ワールドシリーズを放送した点があげられている。しかし、今回の取材規制について、テレビ朝日で法務部長を務めた西脇亨輔弁護士は疑問を呈している。 【画像】カトパンこと加藤綾子 フジ局アナ時代の“レアな顔写真” ◇ ◇ ◇ 正直、朝も夜もテレビで大谷選手の活躍ばかり見させられるのは、いかがなものかと思う。しかし、それとこれとは別問題だ。「記者の出入り禁止」というNPBのやり方は「陰湿」でしかない。フジがワールドシリーズを放送したことと現場の記者の取材活動とは、何の関係もないからだ。 そもそも報道機関が事実を調べ伝えるための取材の場を奪うことはそう簡単に許されるべきではない。ただ、それでも取材現場で選手に迷惑をかけたりしてルールに違反してしまった場合、その不始末を理由に記者が一定期間出入り禁止になったのなら、受け入れて反省しなければならない場面もあるだろう。 しかし、フジが局としてどの時間帯にワールドシリーズを放送するかは、取材活動とは一切関係がない。「どの番組をいつ放送するか」という放送番組編成はテレビ局の表現の自由の根幹で、放送法も真っ先にこれを保障している。「気に入らない番組を放送したから取材禁止」という対応をNPBがとったなら、それは放送法の考え方を真っ向から否定するものでテレビ局はこれに屈することはできない。一度これを受け入れ始めると、極論すれば日本シリーズの裏番組には米大リーグのみならず、サッカー日本代表の試合などの人気スポーツ、さらにはスポーツと関係ない人気番組まで、「日本シリーズから視聴率を奪う番組は放送するな」ということにもなりかねない。 これに対しては「民間の団体が取材を受けるかどうかは、その団体の自由だ」という指摘もあるかもしれない。 ■「野球事業の推進」の目的に逆行 しかし、NPBは単なる「民間の団体」ではない。その目的を「野球事業の推進を通してスポーツの発展に寄与し、日本の繁栄と国際親善に貢献すること」と定める一般社団法人だ。 04年にはプロ野球新規参入に60億円の加盟料が必要であることについて公正取引委員会が独禁法に触れる恐れを指摘したこともあるなど、事実上プロ野球界を一手にまとめている存在で、公的な性格があるはずだ。 そうした強い立場にあるNPBが、日本シリーズという他に代えられないスポーツイベントを取材できないという不利益を、「ワールドシリーズを放送したから」という取材とは関係ない理由で与える。これが「優越的な地位を濫用した」といえるかどうかは別として、不条理な処分だと思う。しかもこうした処分がもたらすのは「日本シリーズの取材・報道が減る」という結果なのだから、「野球事業の推進」というNPBの目的に逆行するのではないか。 そして何より疑問なのが、この件についてNPBが公式にコメントをしていない点だ。取材パス没収という重大な処分を下すのであれば、その理由ははっきり示されなければならない。もしフジがワールドシリーズを放送することが取材を禁ずるほど重大な背信行為だと考えるなら、NPBは正々堂々と処分を公表し、その大義名分を説明すべきだ。それをせずに水面下で取材パスを取り上げることは公明正大とはいえないだろう。 今月5日、NPBは今季のセ・パ公式戦の入場者数が2658万人を超えて過去最高になったと発表した。その背景には各球団の営業努力に加え、大リーグでの大谷選手の活躍を入り口にした野球全体への関心の高まりもあるはずだ。そんな中での今回の取材パス没収は、好循環に水を差すものでしかないのではないか。そんな危惧をおぼえた。 (文=西脇亨輔/弁護士) ◇ ◇ ◇ フジ取材パス没収の裏で何があったのか。●関連記事【もっと読む】露呈したNPBの傲慢とスポンサーへの媚びへつらい…フジテレビから“取材パス没収”のバカらしさ…に詳しい。