【ヴィクトリアマイル回顧】テンハッピーローズと津村明秀騎手が起こした波乱 ハイペースで目覚めたロベルトの血
ようやく報われた津村明秀騎手
14番人気、単勝208.6倍のテンハッピーローズが勝ち、大波乱を演出した。場内は騒然とする一方で、すぐに津村明秀騎手のGⅠ初制覇を祝福する空気へ変わった。大荒れのGⅠはしばしば狐につままれたような空気のまま終わってしまうことがあるが、苦労人・津村明秀騎手の勝利は感慨深いものがあった。海外から腕達者がやってくる時代、GⅠを勝つ難易度は年々あがっている。 【ヴィクトリアマイル2024 推奨馬】日本トップマイラー参戦、勝率30%&連対率50%データに該当! SPAIA編集部の推奨馬を紹介(SPAIA) 川田将雅騎手、藤岡佑介騎手らと同期で、競馬学校時代、馬乗りの腕はダントツだったとも評される津村騎手はここまでJRAのGⅠ【0-3-1-43】。カレンブーケドールで2着3回などあと一歩及ばなかった。戦略面も優れ、折り合いも上手い。それでも勝てない。GⅠの勝ち方を知らないながらも、必死に勝つ術を考えてきたにちがいない。そういった苦労がようやく報われた。東京競馬場の観客にもそんな道のりが伝わった。 パートナーのテンハッピーローズはマイル戦【0-2-1-4】で、1400m【4-3-1-7】という戦歴の持ち主。初重賞がマイルGⅠというのは驚きだが、元来は1600m中心でもあった。ただ前進気勢が強く、折り合いを欠く場面が多いため、それゆえに後半まで脚を溜められないレースが続いた。走りやすいペースを求めた結果、1400m中心になった。 ある程度速い流れになればリズムを作れるといったタイプは多く、クラスが上昇するにつれ、距離を延ばしてペースが合ってくることがある。テンハッピーローズもそんな感じだろう。 この日は序盤600m33.8、800m通過45.4のハイペース。ハナに行くまでに脚を使ったコンクシェルをフィールシンパシーが刺激する形になり、中盤で息を入れる場面がなかった。さらに後ろも離れずに追走したため全体的にスピードが求められた。1400mで折り合ってきたテンハッピーローズにとってリズムを作りやすい流れになった。
ハイペースで目覚めるロベルトの血
中団後ろの外目で気分よく走らせることを心掛けた結果が直線の伸びにつながった。人気薄でもあり、相手云々より自分の競馬に徹したことが最高の伸びを呼び込んだ。それにしても重賞初勝利がGⅠ、それもブービー人気とは驚きしかない。 テンハッピーローズは父エピファネイア、母の父タニノギムレットとロベルトの血が濃い。前後半800m45.4-46.4と東京のマイル戦としては極限に近い厳しい流れがロベルトの血を覚醒させた。混戦に強く、GⅠの持続力勝負で目を覚ます。ブライアンズタイムを筆頭に90年代の競馬でよく目撃されたロベルトの底力がテンハッピーローズを激走に導いたといってもいい。かつてサンデーサイレンスの対抗格でもあったロベルトは、令和の時代にもこうして残る。これも血のロマンというものだ。 母の父タニノギムレットといえば、この日、10レースにメモリアルレースが組まれたウオッカが代表産駒だ。ただ、GⅠ・7勝の名牝ウオッカを出した一方、どの産駒も活躍し、勝ち星を稼いだわけではなく、種牡馬として大成したとはいいがたい。 種牡馬は一発長打待ちよりアベレージを求められてしまうゆえ難しい。この辺のムラっぽさもサンデーサイレンス系にはないロベルトの魅力ではあるが、生産者や馬主の視点でみれば、交配相手としては難しかった。産駒は総じて新潟、東京に強く、小回りを苦手とする傾向があり、持続力勝負を得意とする。 テンハッピーローズのヴィクトリアマイルはまさにタニノギムレットの特徴が強く出た。GⅠを勝ち、今後はどの路線に進むか注目しつつ、タニノギムレットの得意ゾーンに出走した際は狙っていきたい。現在、タニノギムレットはYogiboヴェルサイユリゾートファームで功労馬として余生を過ごし、牧柵を壊す荒ぶった姿が話題になる。ウオッカはもういないが、その血はテンハッピーローズが残していく。