この１敗で変調をきたすことなく、自信を持って次に向かっていきたいところだ

琴ノ若は若元春に先手先手で攻められ、ついに連勝ストップ。大関とりに向け、あす以降、この黒星を引きずらずに立て直せるか

若元春（押し出し）琴ノ若 本当に、「一周回って再スタート」になってしまった。 　 きのうまで全く危なげない相撲で白星を重ねていた琴ノ若が敗れ、ついに連勝ストップ。大関取りへ痛い１敗を喫するとともに、優勝争いでもリードを失い、照ノ富士、霧島といった横綱や大関と星が並ぶ形になった。 　 この日は若元春との対戦。若元春は今場所の番付こそ平幕だが、昨年はずっと琴ノ若との大関争いをしてきた力士で、この一年の対戦成績も琴ノ若の２勝３敗と拮抗している。 　 勝負のポイントとしては、琴ノ若がモロ差しあるいは右四つ狙い、若元春が左のケンカ四つで、この差し手争いがカギになるが、この一年の勝負を振り返っても、立ち合いから四つになることもあれば、突き合いを経ての差し手争いになることもあり、流れはそのときの出方次第だ。 　 ただ、琴ノ若はまず胸で当たってのモロ差し狙い、それが果たせなければ次の動き、という感じで立ち合いが固定されているのに対し、若元春は左差し右上手狙い、突っ張り、カチ上げ気味など、立ち合いのバリエーションがいくつかあり（もちろんその分迷いが生じる可能性もあるが）、展開選択を握っているのは若元春のほう、という部分はあった。 　 そしてこの日は、それが生きる形となった。若元春は左を固めてカチ上げ気味に当たり、琴ノ若の右差しを防ぐとすぐに突っ張り。琴ノ若が左ノド輪で応戦してきたところを、ヒジを横から突いてイナすと、素早く右おっつけで攻め込み、押し出した。 【相撲編集部が選ぶ初場所６日目の一番】貴景勝が大関の意地で阿炎をストップ。６日目にして全勝消える 「中にはいられないように、崩しながらいけました。イメージどおりではないけど、いい相撲が取れました」と若元春。先手先手で動いて、展開選択ができる有利さを見事に生かしたと言えよう。 　 琴ノ若は「（イナシには）慌てなければついていけたと思う」と悔しそう。「相手が突っ張ってきたのは意外だったか」の問いには「関係ないです」と即答するなど、さすがに言葉少なで、取組直後はかなりガックリ来ている様子だったが、ただ最後は「気持ちの問題だと思うので、引きずらないように受け止めたいです」とあす以降に目を向けた。 　 せっかく走ってきた白星街道が止まってしまった琴ノ若。だが、まったく悪い相撲を取ったわけではなく、上位陣の中でここまでもっとも安定感がある存在であることはまだ変わらない。大関取りについても、今場所後、と考えれば、かなり高い星と内容が要求されるので、この１敗はかなり痛いが、来場所も含めての大関取りと考えれば、まだまだ大きな傷ではないはず。この１敗で変調をきたすことなく、自信を持って次に向かっていきたいところだ。 　 さてこれで、優勝争いのほうは、朝乃山がただ一人６戦全勝、７人が１敗で追う形となった。１敗の中では、琴ノ若のほか、照ノ富士、霧島といった横綱・大関陣がやはり地力があるだけに有力だ。霧島はこの日は「速かったでしょ。（こんなにうまくいったのは）初めて」という自画自賛の張り差しから豪ノ山を一蹴し、ここ２日ほどの悪い流れを断ち切った感じ。照ノ富士も、相手の張り手が目に入ったことに「アツくなった。よくないね」と言いながらも、翔猿の素早い動きについていき、日に日に調子を上げてきた感がある。 　 さあ、ここからだれが抜け出すか。朝乃山、照ノ富士、霧島、琴ノ若の４人とも、自分以外の３人と当たったとして、全勝するのは至難の業と思われ、圧倒的な決め手を持ってはいないような気もする。さらにここに底知れぬ魅力の大の里がどう絡んでくるかも何とも楽しみなところ。 　 この後の中盤戦は、それぞれがいかに星を落とさずに直接対決に持ち込めるか、という勝負になる。あす７日目には大の里が１敗同士で王鵬と激突。23歳の若手同士のぶつかり合いは見ものだ。 文＝藤本泰祐