内乱トラウマ? 「民主主義守り抜いた」喜びで政治ストレスを乗り越えよう
弾劾政局の中で心の健康づくり
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による3日の非常戒厳宣布が触発した内乱事態で、多くの市民が精神的衝撃と恐怖を覚えた。以後、日常で心理的苦痛を訴える人が多くなり、各種メディアでも「戒厳トラウマ」という言葉が多く登場した。12日には510人の精神健康医学科専門医が時局宣言を通じて「国民のトラウマを癒すために、尹錫悦大統領が退陣しなければならない」と主張した。また、同日、世論調査機関「リアルメーター」が実施した世論調査でも、国民10人中6人(66.2%)がトラウマを経験したという結果も出た。 14日に大統領弾劾訴追案が国会で可決されたことで、市民は胸をなで下ろしたが、憲法裁判所の弾劾審理過程が残っただけに、依然として政局の混乱に対する不安感と精神的ストレスを感じる人が多い。これについて、健康ハンギョレはトラウマの専門家である大韓神経精神医学会のチョン・チャンスン社会貢献特任理事(精神健康医学科専門医)と慶煕大学病院精神健康医学科のペク・ミョンジェ教授の諮問を受け、現在の韓国社会の心の健康状況を診断し、今後どのように対処すべきかをまとめてみた。 ■質問1.「12・3内乱事態」は本当にトラウマ誘発するのか 専門家たちは、今回の事態が国民の心の健康に悪影響を及ぼし兼ねない点を認める一方、医学的な意味での「トラウマ」(精神的外傷)とは区別する必要があると指摘する。 チョン理事は「非常に衝撃的な事件だったため、驚きと不安、心配などは誰もが体験できる当たり前の反応」だとし、「速やかに戒厳が解除されなかった場合は、間違いなく途方もない集団トラウマを誘発しただろう」と懸念を示した。さらに「ただし、衝撃的な事件が発生したからといって、皆が病理的な症状を経験するわけではない」とし、「今、この用語を乱発することで、本当にトラウマを経験したり経験した人々がさらに心を痛める可能性があり、あまり望ましくない」と付け加えた。ペク教授も「最近トラウマという用語が非常に多く使われているが、日常的に使う意味と医学的な定義は少し異なる」とし、その意味を正確に理解することが重要だと強調する。 トラウマとは一般的なストレスの範囲を超える衝撃的で圧倒的な経験を指す。人の体と心が耐えられるレベルを超える事件を経験したことが原因で現れる心理的衝撃反応だ。医学的に厳密に見れば死を経験したり、目撃したり、生命と安全を脅かされたりするなどの「深刻なレベルの暴力」を経験したことによる後遺症だ。戦争、テロ、自然災害、交通事故、火災、建物崩壊、性的暴行、他人や自分に向けた暴力と犯罪などが代表的な事例だ。トラウマ事件にさらされた後、不安、恐怖、憂鬱、不眠、無気力、絶望感、集中力の低下、怒り、飲酒と喫煙量の増加などの急性ストレス反応が繰り返し続くこともあり得る。 これにより、今回の事態による直接・間接的なトラウマ被害も区分することができる。まず、戒厳宣布当時、国会などの現場で脅威を感じる状況にさらされた人々は直接的な主要被害者になりうる。また、今回の事態で過去に経験した深刻な暴力状況を再び思い出し、トラウマ症状が再発した患者がいる可能性もある。自ら体と心の変化をコントロールするのが難しいなら、直ちに専門的な評価と助けを受ける必要がある。光州(クァンジュ)広域市と済州(チェジュ)特別自治道にある「国立国家暴力トラウマ治癒センター」と全国5つの「圏域トラウマセンター」(国家トラウマセンター、国立釜谷病院、国立公州病院、国立羅州病院、国立春川病院)、各地域の「精神健康福祉センター」などに相談することもできる。 直接的な被害者の家族と知人、メディアなどで関連状況を見守った市民、関連業務従事者などは間接的な「N次被害者」といえる。特に今回の戒厳事態はメディアで生中継されたため、これを見守った無数の市民たちが間接的にトラウマ事件にさらされた。彼らにもやはり人によっては急性ストレス反応が現れるかもしれないが、医学的にはトラウマ事件にさらされたとは言えない。ほとんどは時間が経つにつれて自然にストレス反応が減り、専門的な助けが必要になる可能性は低い。しかし、日常生活と業務に大きな支障があるほどだったり、1カ月以上関連症状が続いたりする場合は、専門家に相談した方が良い。 ペク教授は「弾劾訴追案可決以後、戒厳のような類似の状況が再発する可能性が低くなると予想できるため、恐怖や不安などの症状も自然に落ち着くだろう」とし、「しかし1カ月以上日常生活に大きな困難を感じるならば、この問題がさらに長時間続く可能性があるため、なんらかの措置を取った方が良い」と勧告する。実際、医学的にもトラウマ事件にさらされてから1カ月までは誰でも症状が現れ得る急性期だが、3カ月が過ぎてからも症状が続くなら、必ず専門的な治療が必要な慢性化状態とみなされる。 したがって、「12・3戒厳事態」以降、少なくとも1カ月間は心の健康について気を付ける必要がある。これと関連し、チョン理事は、政治的混乱が与えるストレスとトラウマから回復するためのいくつかの実践法を提示する。酒やタバコなどの物質の乱用を避け、規則正しい食事と睡眠、運動を続けることで、日常を取り戻し▽破局的状況を想像するよりは現在の生活と業務など現実に集中し▽メディアの消費を調節することで、必要な分だけの情報を能動的に受け入れ▽家族や友人、隣人などと互いを支えるコミュニケーションを取ることなどだ。 特にチョン理事は「夥しい関連情報とニュースがトラウマを刺激する恐れがある」とし、メディアの調節に向けた努力を強調した。受動的に情報の影響を受ける放送、ユーチューブなどの映像メディアの視聴を控え、必要な分だけ活字メディアを読むのが望ましい。新聞を読むのが最も良い。新聞は一定の時間を置いて精製されたニュースを伝えるため、能動的に情報を解釈し、受け入れることができるためだ。 ■質問2.長引く政局混乱の中、「尹錫悦発の怒り」をどのように治めるか 政治の混乱状況がしばらく長期化することで現れる過度な怒りや冷笑的な感情も警戒しなければならない。したがって、政治とマスコミが分裂と不安、憎悪を煽るよりは、回復と統合のメッセージを出し続け、市民も成熟した態度で希望を見出す努力が必要だ。政治について話し合う時も、互いの立場が異なる可能性があることを前提に、激化しないように気をつける必要がある。 子どもと青少年、既存の精神疾患者など、心の健康の死角地帯に対する関心も引き続き注がなければならない。最近、青少年を中心に自殺事故が増えている韓国社会の心の健康危機状況が続いているからだ。特に、小児と青少年に今回の事態の情報を隠そうとせず、十分に話し合った方が良い。コロナ禍以降、社会的安定感と楽観性が足りない状況であるため、保護者の助けなしに情報を受け入れる時、むしろ不安と恐怖が大きくなり偏った情報に傾倒する恐れがある。 チョン理事は「社会的混乱期に大きい事件に注目が集まるほど、子どもたちや外国人、障害者、老弱者など疎外されやすい人々にも目を配らなければならない」とし、「彼らは疎外される時により大きく不安を覚えるため」だと語る。さらに「社会的混乱期には緊張感が高まり、心の内的苦痛より外的事件に関心が集まるため、自殺率がむしろ低くなる傾向がある」とし、「しかし、心の『戦時態勢』は長続きせず、すぐに緊張が解け、以前よりさらに苦しい時期が訪れ、社会的には自殺率も再び急増する可能性がある」と懸念を示した。したがって、「怒りには誤りを正す力があるが、無分別に噴出するのは個人と社会に破壊的であり、心の健康を取り戻す過程であまりいい影響を与えない」とし、「市民自らが国家を守り、民主主義を守ったという希望を見いだすことが最も重要だ」と強調した。 チェ・ジヒョン客員記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )