“最後の孤立部族”センチネル族とは、インド洋の孤島に暮らす世界で最も隔絶した人々
実は侵略を経験していたセンチネル族
センチネル族にはサンゴ礁の外へ行ける船がないものの、隣の島の島民が間違いなく訪れていた。センチネル族は彼らから植民地支配者の手によって待ち受ける恐ろしい運命について警告を受けていたかもしれない。 そして少なくとも1度は、北センチネル島自体が侵略を経験している。1880年、植民地の役人だった人類学者モーリス・ビダル・ポートマンが、後に陽気に述懐したように「住民と友好関係を築くため」に島を訪れた。 より正確には、ポートマンは大勢の武装した男たちとともに上陸し、2週間にわたって島内を歩き回った末、幼い子ども4人と老夫婦を捕まえて誘拐し、大英帝国の主要な流刑地に連れ去ったのだ。 そこで6人はすぐに病気にかかり、老夫婦は死亡した。病気の子どもたちはたくさんの贈り物とともに島に送り返された。この帰路で、彼らがどんな外来の微生物を持ち込んだかは想像することしかできない。
「私たちを放っておいてくれ」
そういうわけで、2004年にインド沿岸警備隊のヘリコプターが、島民がインド洋大津波の被害を受けていないか確認するために島の上空を急降下したときに、センチネル族が見せた反応には十分な理由がある。 1人の男がジャングルから飛び出し、ヘリコプターに向かって矢を放った。沿岸警備隊員は印象的な写真を撮影した。1人の男がダンサーのように機敏な脚でビーチを駆け抜け、上空の侵入者に向かって弓を傾けている。男の特徴はわからないが、真っ白な砂浜に浮かぶ彼のぼやけたシルエットは、旧石器時代の洞窟壁画のような永遠性と、一時停止の標識のような即時性を併せ持っている。 その寡黙さにおいては世界的に有名であるにもかかわらず、センチネル族は1つのメッセージを大声ではっきりと伝えてきた。「私たちを放っておいてくれ」と。 後編につづく
文=Adam Goodheart/訳=杉元拓斗