『嘘解きレトリック』“複数の顔を持つ”片岡凜の見事な演技 作品の魅力を象徴する終幕に
人の心が抱く感情は、時代が移り変わっても本質的には変わらないものかもしれない。特に恐怖や悲しみといった深い感情は、まるで風習のように世代を超えて受け継がれていく。『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)第5話で祝左右馬(鈴鹿央士)と浦部鹿乃子(松本穂香)が直面したのは、そんな時代を超えて続く人々の想いが生んだ嘘だった。 【写真】雅(北乃きい)と話す左右馬(鈴鹿央士)、鹿乃子(松本穂香) 1ヶ月前、古びた人形屋敷で起きた不可解な死亡事件を調べる左右馬と鹿乃子。使用人のイネ(松浦りょう)が遺体を発見した直後、彼女自身も川で命を落としているのが見つかる。さらに衝撃的なことに、屋敷で発見された遺体は人間ではなく、人形だったことが判明する。人形のように整った容姿を持つ屋敷の主人・綾尾品子(片岡凜)の存在も相まって、この事件は不気味な噂となって街中に広がっていった。 真相究明のため、怪談雑誌の記者・雅(北乃きい)は同僚の左右馬、鹿乃子と共に取材を開始する。屋敷に足を踏み入れた彼らが出会った品子は、噂とは裏腹に穏やかで知的な女性だった。しかし、「うちでは誰も死んでいません。イネさんは自ら命を絶ったのです」という品子の言葉に、鹿乃子は“嘘”を感じる。左右馬と雅もまた、品子の物腰の端々に違和感を感じ始めていた。 翌朝、左右馬と雅は人形部屋と呼ばれる離れで血痕を発見(この離れの「事件が起こりそう」な雰囲気が、これまた凄まじいのだ)。強引に踏み込んだ部屋で品子と対面するが、そこにいた彼女は昨日会った温和な女性とは別人のように冷たく尖っていた。 第5話では、この美しくも不気味な女性「品子」の謎が遂に解き明かされる。警察の到着後も沈黙を守り続ける品子だったが、隠し部屋から負傷した「もう1人の品子」が発見されたことで、長年隠されてきた真実が白日の下に晒されることに。 なんと、品子は3人いた。清楚で優しげな品子、凛として冷たい品子、そして弱々しく震える品子……1人の「品子」という女性が様々な表情を見せているのではなく、そもそも品子は複数人いたのである。 演じる片岡凜は、3人の品子それぞれに独自の魂を吹き込んでいく。表情、仕草、声のトーン、一つひとつが異なる人物であることを繊細に表現しながら、どこか共通する不思議な雰囲気も漂わせた演技は見事だった。これまでも朝ドラで1人2役を演じ、高い評価を得てきた片岡だが、今回の品子という複雑な役は、その演技力を一段と引き上げることとなった。片岡が“複数の顔を持つ”女優として本作の品子役にぴったりであったことは、SNSでの視聴者の反応からも受け取れる。 第5話のラスト、長年の因習から解放された品子たちが見せる笑顔には、安堵と共に何か言い知れない不気味さも残る。この作品の持つミステリアスな魅力を象徴するかのような、印象的な終幕となった。 品子たちが紡いできた嘘は、確かに真実を隠すためのものだったが、それは同時に彼女たちが生きるために必要な手段でもあったのかもしれない。長年続く因習を守るため、そして何より他の“品子”を守るために紡がれた嘘。その嘘は、時に残酷で、でもどこか切なく、そして儚い愛情すら感じさせるものだった。 嘘は、人を傷つけることもあれば、守ることもある。今回、嘘を見抜く力を持つ鹿乃子が目にしたのは、因習という名の重圧の下で生きる女性たちの、切なくも強かな姿だった。毎話様々な嘘の形が描かれる本作だが、善悪だけでは割り切れない“何か”を隠すのも、また嘘の持つ役目なのかもしれない。
すなくじら