文筆家・村上香住子が垣間見た、カトリーヌ・ドヌーヴの素顔とは?
文筆家・村上香住子が胸をときめかせた言葉を綴る連載「La boîte à bijoux pour les mots précieuxーことばの宝石箱」。今回はフランス映画界のレジェンド、カトリーヌ・ドヌーヴの言葉をご紹介。 【画像】カトリーヌ・ドヌーヴの魅力溢れるヘアスタイル変遷 フランス映画界の象徴として、長年君臨してきたカトリーヌ・ドヌーヴだが、女王などと呼ばれることに、いまではうんざりしているかもしれない。なぜか世間では、素顔の彼女がアンチ・ヒーローだということは、あまり知られていない。女王はクールでもったいぶっているし、近寄りがたい存在だと思われているので、まるで銅像のようにファンたちは遠くから眺めていて、その中身を知ろうともしない。 もともと女優に憧れていた訳ではなく、姉のフランソワーズ・ドルレアックの撮影に付いていき、そこでスカウトされ、そのまま映画界に入ってしまったのだ。姉が1967年に衝撃的な車の事故で亡くなってからは、姉の分まで女優の道に没頭したい、とどこかで語っていた。仲のいい姉妹だったという。
毎年パリの園芸好きが待ち構えている植物の展示会でよく見かけたし、クリニャンクールで蚤の市の常連が集まるアンティーク店があって、そこの店主がドヌーヴと親しかった。その店に日曜の昼食時に行くと、巨大なサラダボールにサラダ・ニソワーズがあふれていたし、傍にはリエットやパテが無造作に置いてあった。あたたかく、とても人間的な店主だったので、よく人が集まっていた。ジャーナリストの女友達は、店主が骨董を探しに旅に出る時、ドヌーヴも時々一緒に行くこともある、といっていた。 パレ・ロワイヤルの近くの、19世紀半ばに生まれたベル・エポック風のパッサージュ・ヴェロドダに、アンティーク店があった。どの品も埃を被ったものばかりだったが、なかなか美意識の高い古物商だといわれていた。いまはもうなくなっているかもしれない。ある時そこの陳列台にカトリーヌ・ドヌーヴが座っていると、店に入ってきた客が、遠くからドヌーヴを見て「あの人形はいくらだね?」と聞いたというエピソードもある。