イスラエル、レバノンでガザ戦争拡大の様相…米、自国民に避難命令
イスラエルが無線呼出器(ポケベル)と無線機(トランシーバー)の爆発攻撃に続き、標的空爆でレバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」の最高クラスの指揮官まで殺害するなど攻撃の度合いを強めていることを受け、米国は自国民にレバノンからの緊急避難命令を発令した。イスラエルが、ハマスではなく北部地域を脅かすヒズボラに攻撃の重心を移し、イスラエルとヒズボラ間での全面戦争への懸念も高まっている。 米国務省は「イスラエルとヒズボラ間の継続的な衝突は予測不可能な状況」だとし、「レバノンにいる米国市民は、商業航空便を利用できるうちに、可能な限り速くレバノンを離れよ。米国大使館はレバノンに残ることにした米国市民を支援できない可能性もある」と、21日(現地時間)に新たな旅行警報を発令した。「可能であれば危機発生前にレバノンを離れよ」という7月の旅行警報よりもレベルが引き上げられた。 17日にイスラエルの仕業と推定されるポケベル爆発攻撃で始まった戦雲は、20日にイスラエルがレバノンの首都ベイルートのマンション2棟を標的空爆して崩壊させたことで、さらに濃くなっている。この空爆で、ヒズボラの最精鋭特殊部隊を率いるイブラヒム・アキル氏やアフメド・ワフビ氏など上級レベルの指揮官16人が死亡した。レバノン保健省は、この日の空襲で子ども3人を含む少なくとも39人が死亡し、数百人が負傷したと明らかにした。昨年10月にガザ戦争が始まってから本格化したヒズボラとイスラエルとの衝突のなかでは、ヒズボラが受けた最も致命的な被害だとみられている。 21日も交戦は続いた。イスラエル国防軍(IDF)は、ヒズボラのロケット発射の動きを確認したとして、この日夜に南部レバノン全域に対する2回目の空爆を敢行した。1回目の攻撃では約290個の目標物を、2回目の攻撃では110個の目標物を攻撃したと明らかにした。 ヒズボラも22日、ミサイル数十発をイスラエル北部のラマト・ダビド空軍基地に発射した。19日にもロケット140発でイスラエル北部を攻撃したが、イスラエルの空爆の水準には至らなかったという分析が支配的だ。ポケベルと無線機の同時爆発によってメンバー数千人が被害を受け、通信システムも崩壊したためだ。英国に基盤を置く研究機関「王立国際問題研究所」(チャタム・ハウス)のリナ・ハティーブ研究員は、ニューヨーク・タイムズに「18年間の『相互抑止』はいまや『イスラエルの一方的な優位』に転換した」としたうえで、「『突破不可能な組織』といわれていたヒズボラの外観は粉砕された。イスラエルは自分たちがヒズボラをいかに圧倒しているのかを派手に示した」と評した。 一連の空襲は、イスラエルがガザ戦争の焦点をハマスからヒズボラに移動させている点を示している。イスラエルは、ヒズボラとの国境地帯での衝突によって北部イスラエルから待避中の6万人の住民帰還までをガザ戦争の戦略的目標に含むと発表した後、ヒズボラに対する前例のない攻撃を敢行した。イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は20日、住民らが帰還するまで「新たな段階での一連の措置」を継続すると明らかにした。ガザ戦争勃発後、ヒズボラはイスラム組織「ハマス」を支援するためにイスラエル北部を攻撃してきた。このため、イスラエル北部地域で約10万人のイスラエル住民たちが「難民」になった。イスラエル住民が難民になる事態は、建国後では事実上初めてのことだ。ニューヨーク・タイムズは「イスラエルのこのような発言は地上侵攻を意味することになると専門家たちは解釈している」と報じた。 イスラエルとヒズボラ間の衝突が中東全域での戦争に拡大するリスクも提起されている。ホワイトハウスのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は21日、「(イスラエルとレバノン間の全面戦争という)実質的かつ深刻な」リスクがあり、米国はこれを阻止するために努力していると述べた。レバノンのナジブ・ミカティ首相代行は、来週ニューヨークで開かれる国連総会への出席を取りやめた。 イスラエルは、ヒズボラに対する攻撃強化が外交的合意につながりうると信じている。イスラエル高官はロイターに「今回の緊張の高まりは、ヒズボラが外交的解決策に同意する動機となりうる」と述べた。アクシオスは「米国はイスラエルの論理を理解して同意してはいるが、このようなアプローチは非常に危険で、容易に統制不可能な状態に陥り、全面戦争につながる可能性があると懸念している」と報じた。レバノンでは今週だけで少なくとも70人が死亡した。昨年10月以降、レバノンでの衝突による死者数は740人を超えた。2006年の全面戦争以降で、イスラエル・ヒズボラ間での最も深刻な衝突だと評される。 キム・ウォンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )