三谷幸喜監督作品、最も面白かった映画は? 「名演技を引き出す魔法」を解説。一方、酷評された作品も…過去作をプレイバック
『ギャラクシー街道』の不評と『記憶にございません!』の快進撃
しかし、三谷幸喜とて当然ながら当たらない映画もある。2015年の『ギャラクシー街道』がそれだ。香取慎吾主演のSFロマンチックコメディー。興行収入を見ると12.5億円と一応好成績なのだが、酷評の嵐となった。 私も劇場まで足を運んだものの、あまりにも奇抜で戸惑った覚えがある。 しかしこの映画、韓国では大人気ということが明らかに。2024年の7月7日、韓国・富川で開催された『第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭』に三谷監督も参加した。 『ステキな金縛り』『ギャラクシー街道』『記憶にございません!』が特別上映され、そのあと講演に登壇したのだ。その際、上映された3作品のうち、どの作品がよかったかという問いかけをしたところ、なんと『ギャラクシー街道』にもっとも拍手があがったという。 笑いのポイントにもお国柄というものがあるのか…。興味深い結果である。 この講演の中で、三谷監督が日本で『ギャラクシー街道』不評の際、「落ち込んで、明石家さんまさんに相談のメールをしたら、『おめでとう』って返ってきて(笑)、この一言で楽になった」と語っている。なんとも深いエピソードだ。 そうして『ギャラクシー街道』の悔しさをモチベーションに変え製作したのが2019年の『記憶にございません!』。興行成績は36.4億円とグンと伸び、評価も上々。個人的には、ディーン・フジオカと田中圭にシビれた。 そして、この映画の面白さに、なんと宝塚歌劇団が目を付けた。星組公演『記憶にございません!』が、2024年8月17日~9月22日まで上演されている。
三谷幸喜が伝えるメッセージ
『ラヂオの時間』(ラジオドラマ)、『みんなのいえ』(マイホーム)、『THE 有頂天ホテル』(ホテルの年末年始イベント)、『ザ・マジックアワー』(街を牛耳るヤクザの抗争)、『ステキな金縛り』(裁判)、『清須会議』(後継者争い)、『ギャラクシー街道』(妻の浮気疑惑)、『記憶にございません!』(政治)――。 舞台は様々だが、登場人物たちは、人生のターニングポイントに立っている。そこに予期せぬ出来事が発生し、進路が思わぬ方向にひんまがる。 川の流れのように緩やかにこの身を任せ…とうまくはいかず、空回りし、周りにも迷惑をかけまくる。けれど、それが幸せのきっかけにもなり、大団円につながっていくのだ。 現実はもちろん、そううまくはいかない。けれど、三谷幸喜の映画を観ていると、芸達者たちがこぞって、私にこう伝えてくるのだ。 人生は、コメディだ。悲惨に思えるアクシデントも、笑える日が来る。誰にだって、マジックアワー(人生で最も輝く瞬間)が訪れる、と。 【著者プロフィール:田中稲】 ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
田中稲