三谷幸喜監督作品、最も面白かった映画は? 「名演技を引き出す魔法」を解説。一方、酷評された作品も…過去作をプレイバック
三谷映画常連の名優といえば?
もう1人、特筆すべきは妻夫木聡だ。三谷幸喜作品での妻夫木は、無垢な少年のようだ。『ザ・マジックアワー』のツメが甘すぎる備後役。『清須会議』(2013)の、バカ殿・織田信雄役。 特に『清須会議』の信雄は、これまでイケメンに見えていた彼の天真爛漫な笑顔にこんな活用法があったかと目からウロコであった。 「あはははー!」とちょんまげを揺らし笑う彼が面白過ぎて、登場するたび、映画の座席から腰を浮いたものである。今一度、三谷映画で、あの笑顔暴走野郎な妻夫木を見たい。 そして、やはり三谷作品といえばこの人、全作品に出演中の梶原善だ。持ち前の「たくらみ顔」がどう活用されるのか。揺るぎない楽しみである。 常連陣は、女優も超豪華だ。深津絵里は、『ザ・マジックアワー』では妖艶、『ステキな金縛り』(2011)では地味キュートで魅了した。 『ステキな金縛り』はもう1人、『101匹わんちゃん大行列』(1962)のクルエラさながらにヒールを演じていた竹内結子のコメディエンヌぶりにも心奪われた。 鈴木京香は、三谷幸喜からの信頼が最も熱い1人。『ラヂオの時間』のみやこさんと、『清須会議』のお市は同一人物とは思えない、まさに七変化だ。三谷監督は彼女のお市役を「凄みのある美しさまで行けた」と大絶賛していた。 そして三谷映画はこの人がいなければ! の戸田恵子。プロ意識の強いキャリアウーマンをさせれば右に出るものはない。
映画の中にある「もう1つの映画」
過去8作あるうちのナンバーワンヒットは、興行収入60.8億円と、文字通り大ヒットを記録した『THE 有頂天ホテル』(2006)である。 内容も、これでもかとスターを大人数起用し、ホテルあるあるエピソードを連発。お節料理みたいな映画で、「面白かった~!」と同時に「よく詰め込んだな~!」と感心する。 詰め込んであるだけに、回収されるまで、話があちこちに飛び戸惑うが、その戸惑いもまた、三谷幸喜映画のおいしいスパイスの1つだ。 『THE 有頂天ホテル』と『清須会議』は、主演の役所広司が、話の散らばりに大真面目に振り回される様が素晴らしい。 また、バランサーとして、『THE 有頂天ホテル』ではボーイ役の香取慎吾、『清須会議』では、寧役の中谷美紀が、素晴らしく機能していた。特に香取慎吾は、三谷幸喜作品では「ヘンな人達の中に混じっても冷静さを失わない常識人」をあてがわれることが多く、どれも素晴らしい。 三谷監督の映画は、昔の名作映画がひょっこりと顔を出す。 『ザ・マジックアワー』は、「役者が別の人間を演じることで、ヒーローのような活躍をする」という設定だが、これは先に、ドラマ『合言葉は勇気』(フジテレビ系、2000)で取り入れられている。 このドラマについてのインタビューで、三谷監督は、参考にした映画として『サボテン・ブラザーズ』(1986)と『バグズ・ライフ』(1998)を挙げ、「『サボテン~』と『バグズ~』にはヒーローがニセモノだというヒネリが利いています。しかもそれが最後には本物以上の力を持つというのが、なんか好きなんですね」と語っている。 ※「TeLePAL」(2000年7月29日号、小学館) また、『ザ・マジックアワー』では市川崑監督が出演している。映画監督を演じ、劇中劇で自身の大ヒット映画『黒い十人の女』(1961)のパロディ『黒い101人の女』を撮っている。 『ステキな金縛り』では、1939年の名作法廷劇『スミス都へ行く』(1939)がカギとなる…という風に、映画の中で名作が効果的に出てくるので、作品を観終わった後、登場した名作映画を続けて観たくなる。三谷が仕掛けた、なんとも幸せな罠…なのかも?