「伝説の14分ワンシーンワンカット」も…杉咲花&若葉竜也『アンメット』が変える「ドラマ界の常識」
4月期のドラマでもっとも注目を集めたドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系)。最終回が終わった今も多くの反響が寄せられている。 【カワイイ…写真あり】杉咲花が「女子高生」姿でいちょう並木で人気ドラマの撮影姿 今作は過去2年間の記憶を失った上に、今日のことも明日には忘れてしまう記憶障害の脳外科医・川内ミヤビ(杉咲花)が患者を救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。 最終回では、検査の結果再発が認められたミヤビが、休みをとった三瓶(若葉竜也)と共に二人だけの時間を過ごす。 ミヤビの作った焼肉丼を頬張り涙ぐむ三瓶。寝ている三瓶の顔を愛おしそうに見つめスケッチしているうちに涙が止まらなくなるミヤビ。いつ失われるかわからない記憶と戦いながら、それでも命の炎を燃やし続けるミヤビの心の葛藤を描くシーンの連続は圧巻としか言いようがない。 やがて二人のケープタウンでの馴れ初めや、婚約するに至った思わぬ事実が発覚。しかし、ホッコリするのも束の間。ミヤビは再び意識を失い救急搬送され、三瓶はいよいよ人がメスを入れてはならない領域の手術に挑む。 「このドラマについて、『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)などを手掛けたチーフ演出のYuki Saitoさんは、放送開始を前に『海外ドラマや映画とも肩を並べる作品を作りたい』と意気込みを語っています。 その志の高さは脚本作りにも表れています。準備稿が出来上がると杉咲と若葉、そして米田孝プロデューサーの3人がアイディアを出し合い脚本家にフィードバックして、決定稿を作る。役を生きるために努力を惜しまないから、あのドキュメンタリーのような緊張感が生まれたのではないでしょうか」(制作会社プロデューサー) 今までのドラマ作りとは異なったアプローチを見せ、神回と呼ばれているのが第9話。14分間に及ぶ、ラストシーンの“ワンシーンワンカット”は早くも伝説となりつつある。 「医局で三瓶が過去の兄への思いを涙ながらにミヤビに告白する場面。実はセリフを決めきるのではなく、三瓶の子供時代のストーリーを脚本家がA4用紙1枚にまとめ若葉さんに預け、若葉さんがそれを落とし込んで自分の言葉で話すユニークなスタイルが取られています。 そして演出部と撮影部、照明部、録音部がワンカットのために1時間以上セッティングに時間を掛け、アイディアを出し合って、このシーンの撮影に挑みました。あのシーンは、日本のドラマ史に革命を起こした瞬間でもありました」(制作会社ディレクター) しかしこの場面の見所は、それだけではない。ミヤビに体を寄せる姿がセリフと被っていたことから、ネット民から若葉のミスを指摘する声も上がった。ところが真実は違う。 第9話を監督した日高貴士氏のブログによると、 「三瓶先生は私のことを灯してくれました」 のセリフが、杉咲のアドリブであることが判明。考え抜かれた演技プランにさらにアドリブを入れてくる、ミヤビを生きる杉咲花の女優魂には目を剥くばかりだ。 「さらに秀逸なのは、何度も繰り返して登場する手術シーン。この場面に備えて、二人は放送の半年前から脳外科の練習用キットを利用して血管の吻合の練習に没頭。その結果、最終回のミヤビの手術において、“神業”を披露することができました」(前出・プロデューサー) 8分以内に血管の吻合を終えないと手術に失敗する修羅場を見事な緊張感の中、やり遂げた三瓶を演じる若葉。やがて眠りから目覚め、 「川内先生、わかりますか」 と声をかけられ、見開いた瞳から涙をこぼして、 「わかります」 と答えるミヤビを演じる杉咲。演技らしい演技を削ぎ落とした二人のラストシーンは、もはや神業と言っても過言ではない。 チーフ演出のYuki Saito氏は、最終回の放送後に自身の「X」を更新。 《願わくば、いやっ、どうしても、この物語の続きを描きたいです!》 と続編に意欲を燃やしている。こうしたクオリティの高い作品を生み続けていけば、日本のドラマ界は確実に変貌を遂げるはず。 今から10年後、日本のドラマ界は“『アンメット』以前”と“『アンメット』以後”の二つの世界に分けられているかもしれない――。 文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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