秋田市最後の銭湯、ビール醸造所として再生 「星の湯」の看板そのまま、設備活用
秋田市の意外な場所に昨年、クラフトビールの醸造所がオープンした。そこは85年もの間地元住民に親しまれ、市内最後となった銭湯。水回りの設備がビール造りに適していたといい、建物はほぼそのままに、内部を改装し、かつての女湯に醸造タンクが並ぶ。県産ホップなど、地元農産物にこだわった醸造所として新たな一歩を踏み出した。(共同通信=添川隆太) 秋田市の繁華街にほど近い、住宅や店が立ち並ぶ地域に「HOPDOG BREWING(ホップドッグブルーイング)」はある。銭湯があった記憶をとどめたいと、建物には「星の湯」の看板がそのまま残る。代表の長谷川信(はせがわ・まこと)さん(44)は「この前もお風呂に入ろうとしてやってきた人がいた」と笑う。 宮城県気仙沼市出身の長谷川さんは大学進学を機に秋田県へ。2005年に秋田市のクラフトビール会社に就職し、醸造を一から学んだ。「白もあれば黒もあり、酵母で香りも変わる」。奥深い世界にのめり込み、2015年ごろからは海外のコンテストで受賞を重ねた。
新たなチャレンジをしようと2022年に独立。場所を探していたところ、廃業した銭湯がテナントを募集していることを知った。ビール造りには大量の水を使うため、湿気に強く排水設備が整っている建物は好都合だった。 浴槽や蛇口は撤去し、男湯にはボイラーを置き、脱衣所は事務所や試飲スペースに。壁には一部銭湯時代のタイルが残る。 23年7月から醸造を始め、「秋田の魅力を知ってほしい」とホップは全国有数の生産地の同県横手産にこだわる。モモやリンゴなど県産の果物を使った商品も手がける。 醸造所見学や試飲イベントには「風呂は熱いけど脱衣所は寒かった」と話すかつての銭湯利用者も訪れた。「この場所にいた人の思いや歴史を残しながら、県内全市町村の原料でビールを造りたい」。醸造所のサイトや県内外の酒屋で購入できる。