石破首相とアメリカ次期大統領との「相性」を占う――ハリスは吉、トランプは凶である理由とは?
日米関係において、指導者たちの「相性」が重要であることは論を俟たない。アメリカ政治外交史を専門とする村田晃嗣氏の新刊『大統領たちの五〇年史:フォードからバイデンまで』(新潮選書)には、指導者たちの人間関係の機微が日米関係に大きな影響を及ぼす場面が何度も登場する。では、石破首相と次期大統領との「相性」はどうなのか――。 ***
日米指導者たちの「相性(ケミストリー)」
安倍晋三のいない日本は「もしトラ」に対処できるかと、問われてきた。 ふり返ると、ロナルド・レーガン大統領と中曽根康弘首相は「ロン・ヤス」関係を築いたし、ジョージ・W・ブッシュ大統領も小泉純一郎首相を大いに頼りにした。さらに遡ると、ジェラルド・フォード大統領は退陣前の田中角栄首相に手を焼き、ジミー・カーター大統領は同じ敬虔なクリスチャンである大平正芳首相と親しかった。指導者たちの「相性」(ケミストリー)は重要である。詳しくは、拙著『大統領たちの五〇年史』をご覧いただきたい。 確かに、トランプと付き合うのは容易ではなかろう。
トランプは「金ぴか時代」の象徴
アマゾンで配信中の映画『ドナルド・トランプの野望 大統領になる男との非公認ドラマ』(ジョン・デヴィッド・コールズ監督)は、1980年代までのトランプの半生を巧みに描いている。強引な父の経営手腕に学びながら、トランプは父を超えようとマンハッタンに進出する。内向的な兄は「サメの一家に生まれたイルカ」のようなもので、酒に溺れて命を落とした。 だが、トランプはサメそのものである。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ジョーズ』(75年)を彷彿させる。この若き「ジョーズ」は金髪の美人モデルと結婚し、カジノ経営にも手を出す。彼の最大の事業は「トランプ」をブランド化することにあった。それ故、彼は自己愛に溢れて妻を愛せず、事業に行き詰ると再三にわたって父の助けを求めた。強欲と自己愛――「第二次金ぴか時代」と呼ばれる1980年代のアメリカを、トランプは象徴していたのである。「アメリカを再び偉大に」と、彼がロナルド・レーガン大統領と同じ惹句を用いたのは偶然ではない。因みに、最初の「金ぴか時代」は南北戦争(シビル・ウォー)後である。 1990年代に入ると、トランプの影は薄くなった。しかし、イラク戦争が長期化し貧富の格差がさらに拡大して、エリートに対する「憤懣の時代」(デヴィッド・ブルックス)が始まると、トランプは再び勢いを得た。彼は明らかに「成金」であり、ニューヨークのエリート層からは忌避されてきた。彼は富裕層の身勝手と反エリートの憤りを同時に体現できる、稀有な存在だったのである。彼は「憤懣の時代」を助長し、内戦(シビル・ウォー)にも喩えられる状況をもたらした。