石破首相とアメリカ次期大統領との「相性」を占う――ハリスは吉、トランプは凶である理由とは?
映画が占う「アメリカの未来」
トランプ、ハリスのどちらが勝っても、それを是としない勢力は強く反発し、おそらく多くの訴訟が起こされよう。11月5日に勝者が決しない可能性も十分にある。日本でも今、アレックス・ガーランド監督の映画『シビル・ウォー』が公開されている。19の州が連邦政府から離脱し、アメリカは内戦に陥る。主人公のジャーナリストたちは、敗北間近の大統領に単独インタビューすべく、危険なワシントンに向かう。 かつて、フランク・キャプラ監督は名作『スミス都へ行く』(1939年)でアメリカの民主主義を謳歌した。普通の市民スミス氏が、上院議員としてワシントンで政治を正すのである。だが、『シビル・ウォー』で主人公たちが向かうワシントンは、バグダッドやカブールを思わせる惨状にある。実際に、このような事態が出来するのか。だが、この映画が示す想像力や表現力は、逆にアメリカ復活の希望にもつながろう。 アリ・アッバシ監督の映画『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』が、来年には日本でも公開される。大統領を笑いとばす活力はアメリカ社会の強みであり、正義を気取って権力批判をする日本のドキュメンタリーもどきの作品よりも、よほど清々しい。 さらに映画の話をすれば、ベトナム戦争やウォーターゲート事件ののちに、ロバート・アルドリッジ監督は『合衆国最後の日』を手がけた。ベトナム反戦派の元軍人に核兵器の基地が乗っ取られ、大統領まで殺されてしまう。実際のアメリカはもちろん「最後の日」を迎えず、「第二次金ぴか時代」の1980年代に突入したのである。 アメリカは手ごわく、しぶとい。同盟国として、これに同伴するには、日本も正論だけではないしたたかさを求められよう。 ◎村田晃嗣(むらた・こうじ)1964年、神戸市生まれ。同志社大学法学部卒業。ジョージ・ワシントン大学M.Phil。神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(政治学)。広島大学総合科学部助教授、同志社大学法学部助教授などを経て、2005年より同教授。2013年から2016年まで同志社大学学長を務める。著書に『大統領の挫折――カーター政権の在韓米軍撤退政策』(アメリカ学会清水博賞、サントリー学芸賞受賞)、『戦後日本外交史』(共著、吉田茂賞受賞)、『トランプ vs バイデン――「冷たい内戦」と「危機の20年」の狭間』、『映画はいつも「眺めのいい部屋」――政治学者のシネマ・エッセイ』など。
村田晃嗣