特殊化学品のサプライチェーン多様化を支援するMstack、1年で売上15倍
Mstack Chemicalsの創業者で最高経営責任者(CEO)のシュレヤンズ・チョプラは、世界の化学産業はこの分野が永久に変わる変革期に入ったと考えている。このほどシリーズAラウンドで4000万ドル(約60億円)調達したことを発表した特殊化学品を扱う同社は変革に即した態勢をとっている。 市場調査会社グランド・ビュー・リサーチのデータによると、世界の特殊化学品市場は現在約6500億ドル規模で、この業界は他の部門の生産・製造に欠かせない個々の化学品や混合物を供給する上で重要な役割を果たしている。従来は欧州と中国のサプライヤーが圧倒的なシェアを握ってきたが、この状況は変わりつつあるとチョプラは指摘する。 「欧米の企業、特に北米の企業は中国への依存度を下げるためにサプライチェーンの多様化を模索している」とチョプラは話す。「同時に、欧州の特殊化学品の企業はウクライナでの戦争などによるエネルギーコストの高騰に直面し、競争力を維持するのに苦慮している」 チョプラによると、理論的には特殊化学品を必要とする多くの欧米企業が取るべき策はもう少し供給網を広げること、つまり、サプライチェーンの多様化のメリットと競争力のある価格の両方を提供できる新興市場、特にアジアの企業に目を向けることだという。だが実際には、多くの企業が理解の乏しい市場の中小サプライヤーと取引を始めるのに不安を覚え、また取引手段も持ち合わせていないため、そうはなっていないと指摘する。 Mstackはそこに目をつけた。「これらの企業が必要とする特殊化学品を確保できる、信頼されるブランドを当社は構築している」とチョプラは言う。Mstackはアジア全域および中東のメーカーと取引して企業が必要とする特殊化学品を確保しているが、顧客企業はMstackとの取引だけに専念すればいい。Mstackは顧客が求める品質を保証すると同時に、より手頃な価格で確保することができる。 化学品業界に新規参入する企業の中には、多様化という課題を解決するのにマーケットプレイスというアプローチをとるところもあるが、Mstackはそれをあえて避けている。「単に仲介するのではなく、サプライチェーンの中で品質を管理する必要があると考えている」とチョプラは説明する。 同社は、新興市場のサプライヤーとのやりとりの多くを自動化し、コストを最小限に抑えることを可能にする技術スタックを基盤にしてバリュープロポジション(価値提案)を構築してきた。バイヤーは複数の小規模サプライヤーと取引するのではなく、Mstackを通じて必要な特殊化学品の調達・試験・出荷・配送・追跡ができる。 Mstackのサービスは顧客の心をつかみつつあるようだ。チョプラは現段階での売上について詳細は明かさないが、この1年で売上は15倍になったという。現在、50社以上を顧客に持ち、6つの異なる地域で販売している。 2022年創業のMstackは、特殊化学品に対する需要が急速に高まっていることや、顧客が新たなサプライヤーを求めていることから、今のペースで成長し続けられると考えている。チョプラによると、例えばインドの特殊化学品市場は現在年率12%で成長している。世界的な業界の成長率の4倍にあたり、これはバイヤーが多様化に目を向けているためだという。 Mstackはまた、研究・開発への投資による事業拡大も視野に入れており、自社のサプライヤーと協力して新しい配合やプロセスの革新に取り組むための施設を建設している。 シリーズAで調達した資金は、こうした野望を急スピードで追求するのに役立ちそうだ。同ラウンドはLightspeed(ライトスピード)とAlpha Wave Global(アルファ・ウェーブ・グローバル)が共同で主導し、HSBCイノベーション・バンキングからの融資や多くのエンジェル投資家からの支援も受けた。 ライトスピードのパートナーのベジュル・ソマイアは「Mstackが(特殊化学品市場の)変革をリードするにあたり、途方もなく大きな可能性を持っていると確信している」と語る。「今回の資金調達でMstackはテック主導型プラットフォームの可能性を最大限に引き出し、最先端の研究に取り組み、世界中の顧客に高品質な製品を提供することができる」 アルファ・ウェーブ・グローバルの共同創業者でパートナーのナブロズ・ウドワディアは「Mstackは世界の化学品サプライチェーンの形成において重要な役割を担っており、同社と提携できることを大変嬉しく思っている。今回のラウンドによりMstackはベンダーと共同で行う新製品開発における研究・開発を強化することができる」と話している。
David Prosser