北朝鮮兵が犬死にしても「とにかくミサイルをぶちあげろ」…金正恩がロシアへの協力を惜しまない「のっぴきならない事情」
940万発の弾薬をロシアへ
北朝鮮が核ミサイル開発に全力をあげているのは、金ファミリーによる独裁体制を維持するためである。これは、金日成、金正日、金正恩と三代にわたって変わっていない。 世界最強の軍事大国アメリカといえども、北朝鮮を攻撃しようとすれば、必ず核兵器による攻撃を受けるということである。そこで、北朝鮮は、国民が飢えようが、核ミサイル開発を最優先の国家目標としているのである。 そして、北朝鮮のような小国がアメリカと対等に外交交渉ができるのは、核兵器のおかげだからである。また、核兵器や化学兵器などの大量殺戮兵器を放棄すれば、リビアのカダフィやイラクのサダム・フセインのような命運が待っていることを、金正恩はよく知っているのである。 金正恩は、核兵器や弾道ミサイルの性能を向上させる能力が欲しい。北朝鮮にそれを提供できる友好国の核軍事大国は中国かロシアである。しかし、中国は北朝鮮の核武装を望んでいない。そこで、標的はロシアということになる。 金正恩は、ロシアの軍事技術を入手するために、ウクライナ戦争で不足している武器弾薬、兵員を提供することのバーターで欲しいものを手に入れようとしている。 弾薬については、韓国政府の10月末の試算によれば、すでに約940万発が送られている。在庫整理のため、北朝鮮は1970年代に生産した弾薬まで提供したという。したがって、実戦に使用可能かどうかは不明だという。
1万人以上の兵士がロシア入り
金正恩は、2023年9月13日、アムール州にあるボストーチヌイにある宇宙基地を訪ね、プーチン大統領と首脳会談を行った。会談の前に、両首脳は基地を視察している。 北朝鮮は、ウクライナ戦争に関して、一貫してロシアを支持してきた。その点をクレムリンは評価し、国際的孤立が目立つ中で、ロシアを支援する仲間がいることを世界に誇示する機会として、金正恩を招いたと考えられる。 北朝鮮は、昨年の5月と8月には、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した。次は失敗が許されないので、ロシアに技術支援を求めたのである。ロシアの宇宙基地を訪問したのは、まさにその技術がそこにあるからである。 プーチンは、金正恩を大歓迎し、宇宙技術などの供与を約束したと見られている。それが功を奏して、訪露2ヵ月後の11月22日には軍事偵察衛星の打ち上げに成功した。 ミサイル関連技術がロシアから北朝鮮に移転され、それが活用されると、軍事偵察衛星の開発が成功する可能性が増える。そうなると、日本や韓国、そしてアメリカにとって、北朝鮮の軍事的脅威が増大することになる。 弾道ミサイル技術を使った衛星の発射は国連安保理決議に違反するが、ロシアも北朝鮮も、その点は無視して開発を続けるであろう。 10月中旬に北朝鮮はロシアに1万人以上の兵士を派遣し、ブリンケン米国務長官によれば、そのうち8千人が既にウクライナ近くに移送されており、数日以内にウクライナ軍との戦闘に参加するという。 北朝鮮にとっては、軍事技術、食料、外貨を獲得する手段であり、また兵士に実戦訓練を施す機会ともなる。今回打ち上げた火星19号にもロシアの技術が活用されているようである。 しかしながら、北朝鮮の兵士は、祖国から遠く離れた戦場で犬死にする危険性があるし、ロシア軍にとっても、指揮命令系統などの観点から、真に有力な援軍となるかどうかは疑わしい。 北朝鮮のウクライナ戦争への参戦という実態を受けて、秋葉剛男国家安全保障局長は訪中し、王毅外相と会談した。中国は、ロシアと北朝鮮の接近に不満を抱いているようで、ウクライナ情勢のアジアへの波及を懸念している。秋葉は、石破首相と習近平主席の首脳会議の準備も行うと見られている。日中両国が戦略的互恵関係を推進することが肝要である。 ……・・ 【さらに読む】今まさに「朝鮮半島情勢の急変」と「金正恩の末路」が懸念されている「差し迫った理由」
舛添 要一(国際政治学者)