「行政は万能ではない」「避難するかはあなたが判断」──住民主体の防災対策に方針転換 中央防災会議
住民主体への方針転換で行政の仕事はむしろ増える
防災行政の大きな方針転換といえる今回の報告書だが、一方で、住民が主体的な行動をとるための策としてはまだまだ不足している感は否めない。 最終案に盛り込まれた具体的な取り組みは、いずれも住民が主体的に行動することを支援する策ではあるが、それぞれを実行する主体は行政側。このため、作業部会委員の片田敏孝・東京大学特任教授は報告書の素案段階で「住民が自分たちで対応しなければ、という動機づけを持つための戦略がない」と指摘していた。今回改めて示された報告書では、こうした指摘を受けて「実現のための戦略」という項目を設けたが、同じく委員の元NHK解説委員の山崎登・国士舘大学教授が「住民の主体的な防災態勢を支えるためのハードのあり方などを各省庁が考える必要がある」と述べるなど、まだまだ課題は多い。 それでは、住民主体の防災対策にはどのようなものがあるだろうか。 その一つに、行政ではなく地域の住民や事業者などが主体となり、地域の特性に応じた計画を策定することができる「地区防災計画制度」というものがあるだろう。地方自治体などが災害対策基本法に基づいて作成する地域防災計画よりさらに小さい単位で作られるもので、2013年の災害対策基本法改正によって法律に位置付けられた。 地区防災計画に詳しい室崎益輝・神戸大学名誉教授は11月下旬に慶應義塾大学で開かれたシンポジウムで「地域の実情に合わせ、地域の強みを生かした計画を作る過程はまちづくりそのもの」と講演。その後、「老人や小さい子供、ハンディキャップを持った人などにやさしいなど、普段から多くの住民にとって住みやすい良いまちにしていくことが、災害に強いまちになることにもつながる」と話した。 先進的な取り組みも出始めているが、まだまだ全国的には地区防災計画の策定が進んでいるとまでは言えない。こうした地区防災計画の取り組みを、住民が自発的に行おうと思えるようにするために必要なことは何なのか、を考えていくことも一つの策になるだろう。ただ、室崎名誉教授によると「まだまだ行政が正しく地区防災計画の意義を認識していないことが大きな問題」という。 「自らの命は自らで守る」という住民主体の方向に防災対策の方針転換を進めることは、行政の役割が小さくなることではない。むしろ、普段のまちづくり、地域づくり、国づくりの段階からどれだけ住民一人ひとりの生活や思いに寄り添いながら、災害に強い社会をつくっていけるかが問われることになるため、地方自治体や気象庁、国土交通省など従来から防災に深くかかわっていたところはもちろん、その他の行政機関でもこれまで取り組んだことがない新しい防災に関係する仕事が増えることになるはずだ。そうでなければ、「行政は防災を住民に丸投げした」との批判は免れないだろう。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)