加藤雅也「30代でハリウッドに挑戦、60歳を迎えた今、舞台の可能性を感じて。コロナ禍を機に始めた料理で、妻の気持ちに気づいた」
◆神津恭介シリーズ『わが一高時代の犯罪』に出演します 映像の仕事ばかりしてきた僕が、初めて舞台に立ったのは45歳の時でした。それまで挑戦しなかったのは食わず嫌いと言いますか、要は自信がなかったからです。同じ演技とはいえ、映像と舞台とでは短距離走と長距離のマラソンくらい違いますから。でもいざやってみたら楽しくて、なぜもっと早く挑戦しなかったんだろうと後悔しました。 そしてこのたび新たな舞台、神津恭介シリーズ『わが一高時代の犯罪』に出演させていただくことになりました。僕は貪欲で野心家の実業家、水町泰蔵を演じます。 もともと僕は推理ものが好きなんです。それこそ『金田一耕助シリーズ』とか『オリエント急行殺人事件』、明智小五郎とか。それでこの作品もオファーをいただいた際、まず探偵ものということでストーリーが面白そうだなと。と同時に、コロナ禍でしばらく舞台から離れていたこと、その間にあらためて舞台の可能性・必要性を感じていたことも出演を決めるきっかけになりました。 今はAIが、ものすごい勢いで進化しています。このままいくと、現場では役者の顔だけを撮影して、あとはCGで映画を作る、などという時代が来るかもしれない。そんな中で役者が自分の足で立ち、自分の声で思いを伝えられるのは何かと言ったら、もう舞台しかないような気がするのです。人間じゃないとダメな、非バーチャルなもの。芸は身を助くじゃないですが、最後に残るのが舞台なら、今のうちにしっかりやっておかなくては、と思ったのです。 この舞台ではミステリー要素のほか、神津恭介の初恋なども描かれます。きっと楽しんでいただけるものになると思いますので、ぜひ劇場に足をお運びください。
◆料理をするようになって、新たな気づきがありました プライベートでの趣味は写真ですね。一眼レフのデジカメをいただいて、20年ほど前からいろいろなシュチュエーションで撮影しています。あとはコロナ禍に始めた料理でしょうか。いつも妻に作ってもらうばかりで悪いなと思ったのがきっかけですが、やってみたら面白くて。レシピを検索しながら、夕食を作ったりしています。 家族の評判ですか? 娘は僕には何も言いませんでしたが、最初の頃、妻にこっそりと「嫌なんだけど」とグチっていたみたいです。でも妻は「そんなこと言ったらダメ! 今後、全部私の負担になるかならないか、ここが人生の大事な分かれ道なんだから!」と口止めしたみたいで(笑)。妻としては、家事の負担は少しでも減ったほうがいいですからね。 一週間もすると「こうアレンジしたらどうなるんだろう?」と、だんだん化学の実験みたいになってきたんですが、それもまた楽しくて。料理中は「無」になれるところもいいですね。ラジオDJの仕事もさせていただいてるので、他の人のラジオを聴きつつDJの勉強をしながら料理をしています。 妻との会話にも料理の話題がプラスされました。たとえば「味噌汁を作る際、味噌を入れたら沸騰させちゃいけない。麹菌が死んで美味しくなくなるから」なんて会話、これまでしたことがなかったですから。料理のおかげで夫婦の会話の内容が増えました。 あと、ドラマでも奥さんが料理ができたと呼んでるのに、夫が「いま手が離せないから後で食べる」とか言うシーンがありますよね。で、奥さんがラップをかけて置いておいて、後で夫が食べる時にレンジでチンするんだけど、夫は「あんまり美味くないな」とか言うわけです。それを聞いた奥さんが「だからすぐに食べてって言ったのに!」と怒る。 僕も夕食を作った際、なかなかテーブルに着かない娘に対して「食べるタイミングを計算して作ったのに」と思うことがありました。その時、「こういうことか。一番美味しい時に食べてほしいんだ」と理解できたんです。ただのセリフじゃなく、実感として腹に落ちました。(笑) 一流料亭の料理人さんは、厨房からお座敷に運ぶ時間までを計算して料理を作ると言われます。細かいことにこだわるのは、ただ頑固なわけじゃなく、お客さんに一番美味しい状態で食べてほしいからなんですよね。その気持ちが身をもってわかったので、今後料理人の役が来た際は、ものすごく実感を持って演じられると思います。(笑) (構成=上田恵子、撮影=本社・奥西義和)
加藤雅也
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