柴田聡子が話す「奇をてらわない」ことと「現実的に考える」ということ。腰を据えて音楽に対峙する
「これほどぎりぎりまで作業したのは、初めてでした」。7枚目のアルバム『Your Favorite Things』の制作について、柴田聡子はそう話す。 【画像】柴田聡子 これまでにない試行錯誤を経て生まれたというこのアルバムの話を聞くなかで、パラフレーズしながら繰り返し話されたのは、「奇をてらわない」ということと「現実的に考える」ということ。奇をてらわず、現実的な方法でより力強い夢を見るために、音楽家、そして一人の大人として、自身について省みることや、変わってゆくことに、柴田聡子はいま、本格的に腰を据えて対峙しているようだった。 まっすぐで研ぎ澄まされた、けれども肩の力の抜けたこのアルバムが、これまで以上に音楽をつくることに邁進し、真摯に向き合おうとする姿勢から生まれたことが、インタビューを通じて垣間見えた。
前作までは「自分のものすぎて恥ずかしかった」ところから、今作は「自分の手を離れた」ところでつくれた
─今回のアルバムは、どんなふうにできあがっていったんですか? 柴田:前作までは自分のもの過ぎて、恥ずかしくて聴けないところもあったんです。今回は、いろんな人に楽曲を提供した経験なども経て、曲として良く聴こえるためにはどうしたらいいかなという視点を持って、ちょっと自分の手を離れたところでつくることができたように思います。 サウンド面は、岡田拓郎さんに全面的に協力していただいたことが本当に大きかったです。今回は最初から最後まで岡田さんがサウンド面をしっかりプロデュースしてくれて。プリプロダクションの段階でもたくさんアイデアを入れていったり、試行錯誤する時間が長かったですね。本当に地道な制作でした。 ─『ぼちぼち銀河』リリース時のインタビューで、制作時に「我の強いモード」だったというお話をされていましたけど、そういう意味でいうと今回はどうでしたか? 柴田:我の強いモードで『ぼちぼち銀河』をつくったけど、中途半端にエゴを出すと周りも困っちゃうから、今回はさらにエゴを出す必要性を感じました。岡田さんも強い個性があるから、お互いにやりたいことを出していったのが良かったなと。周りには大変な思いをさせたと思うんですけどね。 いつもそうなんですけど、みんなでやっているということを忘れないようにするのが本当に大事だなって、今回の作品で特に実感しました。みんなが良い気持ちでいられることが大切だと思っているけど、誰かはなにかが満たされなかったりするかもしれないし、誰かをないがしろにするようなことを制作の過程でしているかもしれない。こうやって喋るのも、誰かの気持ちを踏みにじっているかもしれないことを、どうにか正当化したいという罪悪感からだろうし。 ─柴田さんに作品についての取材をさせてもらうと、必ずどこかでなにかしら懺悔のような言葉が出てくる気がします……(笑)。 柴田:やばい!(笑) つくったものについて最高だっていう気持ちはつねにあるんですけど、「できた! 最高だ! わーい!」みたいな感じで一緒につくってくれた人に接したときに、相手がそこまで最高な気持ちじゃない場合を考えちゃうんですよ。ほかの人の制作の裏話もよく聞くから、やってる方は「最高だ!」とか言ってるけど、大変なことっていっぱいあるよなって。 ─ほかの人の事例を聞くと、自分もそうなのではないかと思ってしまう? 柴田:自分がその例に漏れるはずは、あるわけがないなって……。それを忘れちゃったら、まあいいやって踏み越えていくばかりになっちゃう気がして。だから懺悔めいてしまうところがあるのかもしれないです。 でも、制作からはそうやって世界のいろんなことを学べます。自分の打ち込んでいることを通して、世界のすべてを学んでいく感覚がすごくあります。