【ラグリパWest】純粋培養から高みを目指す。山領一花[ナナイロプリズム福岡/BK]
姓は「やまりょう」、名は「いちか」。山領一花は純粋培養されていると言っていい。 久留米大学の4年生ではあるが、ラグビーはナナイロプリズム福岡、愛称「ナナイロ」でやっている。同じ福岡の久留米に本拠地を置く総合大学と女子チームの関係は濃い。 ナナイロの最高経営責任者(CEO)の村上秀孝やチームドクターの長島加代子は医学部の出身であり、ヘッドコーチの桑水流裕策(くわずる・ゆうさく)は、いちかが籍を置く人間健康学部の客員教授でもある。 2つの組織は5年前、協力して課題解決に対応する枠組みを作る「包括連携協定」を結んだ。チーム創設と同時期である。 いちかは入学からナナイロでプレーを続けて来た。その第一号になる。「純粋培養」のゆえんだ。黒目がちの丸顔は、笑うと目じりがふにゃと下がる。癒し系の雰囲気が漂う。 「ナナイロにはラグビーのよさ、チームメイトとつながれる、ということがあります。練習や試合以外にもみんな仲が良くて、ごはんなどにも行ったりしています」 そのナナイロが参加した国内最大の「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024」が終わった。シリーズは7人制で4戦構成である。ナナイロの年間総合成績は6位。コア・チームとして初めて4戦すべてを戦った昨年より順位を2つ下げた。 その暗い状況において、いちかの成長は明るい話題だ。4戦24試合中22試合に出場する。155センチほどのSHとしてFWとBKのつなぎ役に徹した。 今年の太陽生命シリーズはチームの軸である中村知春が7人制日本代表の遠征に参加した。そのためその背番号1をつけた。 「もう、うれしくって。ちはるさんへの責任を感じながらプレーしています」 初々しさがあふれる。 そのいちかの特徴をナナイロの分析担当の濵村裕之は話す。 「独特の間合いを持っていて、引きつけたり、方向を変えたり、センスがあります」 濵村は2011年のワールドカップで15人制男子日本代表の分析をつとめた。近鉄(現・花園L)や龍谷大でヘッドコーチをしたこともある。その目は確かだ。 太陽生命シリーズで、いちかはパスをしたあと、その捕球者に走り込み、別の選手に再びパスを放るループを再三見せた。プレーの底にあるのは他者への思いやりだ。 「その人によって、すぐにパスを出してショートに入ってもらうか、自分がタテに仕掛けてから出すか、色々考えています」 自分本位ではない、ラグビーにはうってつけだ。競技開始は小1だった。 「お兄ちゃんがやっていました」 5歳上の兄・一弘と同じ嬉野(うれしの)ラグビースクールに入った。 福岡の隣県、佐賀の西部にある嬉野は国内で名の通ったお茶の産地である。 「飲みものの中では緑茶が一番好きです。ここのお茶は苦くなくて、甘みがあります」 中国から日本にお茶が伝わった1200年前はその値は高く、薬の扱いだった。それを毎日飲み、すくすくと育つ。 中学では佐賀ジュニア・ラグビー・クラブ(JRC)で続けた。この時の真っ赤なヘッドキャップをナナイロに入った今も使い続けている。故郷を、ルーツを、忘れない。 高校は女子部員を受け入れる佐賀工に進む。男子は昨年末の103回全国大会に42年連続52回目の出場を決めた。この大会は4強戦敗退。準優勝する東福岡に28-50だった。最高位は80回大会(2000年度)の準優勝。伏見工(現・京都工学院)に3-21だった。 いちかは入学の理由を話す。 「ほのかちゃんが行っていました」 堤ほの花。7人制と15人制の両方で日本代表経験がある。ポジションはWTB。在籍は母校の日体大。その5歳上の先輩への憧れは今でも続いている。 「ほのかちゃんは練習態度は真面目だし、いつも元気です。トライを獲れるアタックもいいし、タックルも躊躇することなく大きい相手に入っていきます。理想です」 その佐賀工にいちかは先月中旬から3週間、教育実習に戻っていた。専門は保健・体育。指導教官はラグビー部部長で、先輩でもある仁位岳寛(にい・たけひろ)だった。 48歳の仁位は佐賀工から福岡大に進み、保健・体育教員になる。現役時代はPRだった。 「仁位先生には安全面を強く言われました」 体を使う授業が中心だけに、ひとつ間違えれば大ケガにつながる可能性がある。 その保健・体育の教員免許が取得できることなどがあり、いちかは久留米大学進学を決めた。入学後、ナナイロとは別に女子ラグビーのサークルを学内に立ち上げた。 「後輩が入って来てくれて今は9人です」 まだ、大学から部認可を待つ状況だが、ここでもいちかはパイオニアになる。 課せられる使命と向き合う中での息抜きは「BE:FIRST」(ビーファースト)。歌って、踊れる日本の7人組グループである。 「ライブは大阪城ホールなど2回行きました」 推しをしっかり作り、切り替えをこなす。ただ、あくまで中心は楕円球にある。 「ハードワークをして、見ている人たちに勇気を与えられるパフォーマンスをしていきたいです。ナナイロで優勝したいです」 ナナイロの太陽生命シリーズにおける最高は準優勝。昨年、最終第4戦の大阪・花園大会で達成した。年間総合優勝はない。純粋培養の力、それにもれなくついてくるチーム愛をもって、夢を実現させたい。 (文:鎮 勝也)