センバツ2022 鳴門「横綱」に惜敗 エース8K、意地の1点 /徳島
第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第6日の24日、鳴門は1回戦で大阪桐蔭(大阪)と対戦し、1-3で惜敗した。昨秋の明治神宮大会を制し、優勝候補とされる「横綱」との一戦。三回に先制されるも、冨田(3年)は強力打線を相手に七回まで追加点を許さない好投を見せ、打線も三連打で1点を返すなど意地を見せた。県教委の方針で対外試合ができず、ぶっつけ本番で挑んだナインの健闘に、アルプススタンドの生徒や保護者たちから惜しみない拍手が送られた。【国本ようこ、長沼辰哉、小宅洋介】 チームの絶対的エース・冨田は初回、昨秋の大会で本塁打5本を放った強打者、松尾を見逃し三振に仕留めるなど、素晴らしい立ち上がりを見せた。三回に先制され、球が甘くなった時は捕手の土肥(同)がジェスチャーで意思疎通し、後続を断った。土肥は右打者に対し体ぎりぎりの内角を要求。「守りに入ったら(桐蔭は)どんどん振ってくる。思い切って強気のリードでいこうと思った」。大阪桐蔭の強力打線を相手に四死球1で八つの三振を奪った。 なかなかつながらなかった渦潮打線は、七回に土肥、豊田(2年)が2死から中前への連続安打を放ち、一、二塁の好機を作る。続く冨田が初球を中前にはじき返し、土肥を還した。貴重な1点にアルプススタンドは歓喜に沸き、冨田の母正恵さん(42)は「うれしい。よくやってくれた」と笑顔。チアリーダーを務めたダンス部は、得点の場面で踊ると決めていた阿波踊りを披露した。多々野好(ただのこのみ)部長は「踊れてすごくうれしい。諦めずに頑張ってほしい」と声を弾ませた。 八回に追加点を許すも、九回、ナインは最後まで懸命に食らいつく。試合終了後、アルプススタンドに一礼した選手たちに温かい拍手が送られた。見守っていた主将の三浦(3年)の父修一郎さん(45)は「お疲れさまとはまだ思わない。やることはいっぱいある。この経験をバネに、夏に向け頑張ってほしい」と話した。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇「元主将」生かし、チーム貢献 上田隼翔(はやと)副主将(3年) 「元主将の経験を生かしてサポートしたい」。昨夏の新チーム発足時に主将となったが、11月に副主将の三浦鉄昇選手(3年)と交代した。森脇稔監督ら指導陣の判断だったが、それでも「自分のできることをやろう」とチームの成長に貢献してきた。 「野球漬けの日々を送りたい」と奈良県橿原市から鳴門に進んだ。広角打法を武器に、1年生秋からレギュラー入り。昨夏の徳島大会で12年ぶりの初戦敗退を喫した4日後、新チーム主将を決める投票で自分の名を書いた。「憧れだったし、しんどい立場だからこそやってみたかった」 だが、真面目で温和なため「メンバーに気を使いすぎるところがあった」(森脇監督)。自身も「自分のプレーに頭がいっぱいでチームをまとめる余裕がなかった」と振り返る。指導陣は、試合で流れが悪くなると率先してタイムを取ってチームを仕切り、強気ではっきりものを言う三浦選手との交代を決めた。 「キャプテンを降りることになった」。交代を告げられた日に母久美子さん(51)に伝えた。家で弱音を吐いたことが無かった息子の悔しさを母は察していた。「今までつらかったのは分かってる。隼翔は隼翔らしく頑張ったらいいやん」。その言葉に勇気づけられ、気持ちを切り替えた。「鉄昇と二人でチームを作ることに変わりはない。野球はチームスポーツ。求められる役割を果たそう」 三浦選手の上田選手への信頼は厚く、「練習や紅白試合でエラーが続く時や、プレーの連係がうまくいかない時は改善点を話し合っている」。上田選手も「前向きな鉄昇がまとめることで失敗を恐れないチームになった」と認め合う関係だ。 大阪桐蔭戦では、六回に右前打を放ったが、点には結びつかなかった。「できたことは少なかった」と、相手のペースで進んだ試合展開に悔いが残る。「春で終わりではない。夏にもう一度帰ってきて、自分たちの野球をしたい」。初めての夢舞台での苦い経験を糧に、さらなる躍進を誓った。【国本ようこ】