【島々の地域づくり事業協組】 地域全体の取り組み鍵に
◆制度評価 特定地域づくり事業協同組合(特地事業協組)制度の根拠法「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業推進法」は2020年6月の施行から4年。特地事業協組は今年6月末までに全国で100組織を超えた。鹿児島県内は6月創立の宇検を含め8組織。鹿児島県奄美群島内は5組織となった。 奄美市しまワーク協組代表理事、奥圭太さん(48)=ばしゃ山村代表取締役社長=は、こう評価する。「奄美に住んで働く手段の選択肢の一つになっている。移住では仕事、住む家、生活様式、交通手段、給料、社会保険などが気掛かりな点だろう。組合はそれらの相談に乗り、解消の道筋を示してくれる。事業所直だと多くの場合、まず住む場所がネック。いろんな障壁があるが、組合はいろんなつながりで手助けできる。かゆいところに手が届くんですよね」 ヨロンまちづくり協組代表理事、川畑力さん(44)=介護老人保健施設風花苑理事長=はこう評価する。「移住の窓口となるいい制度。島暮らしや仕事、人と人とのつながりを体感しながら島に入っていける。飽きっぽい人も自分に何ができるか試しながら暮らしていける。事務局はシフトを組むのが大変だが、3者、4者にメリットはある」 県内の特地事業協組の設立、運営をサポートする県中小企業団体中央会連携情報課の坂本和俊課長は、こう話す。「住宅の確保といった課題の克服を、人口減対策という点で行政と連携しながらうまく進めている組合が多い。とくのしま伊仙の場合、長寿子宝という切り口もあって派遣先にこども園や高齢者施設を含めた地域課題対応型。他の組合は観光関連も入るなど地元の基幹産業に絡めた取り組みになっている」 中央会は21年度から毎年1月に、奄美群島内で関連シンポジウムを開催。延べ3回という頻度は全国で鹿児島だけだろうという。問い合わせは続いており、組合の要となる事務局長の確保が難航して進行が中断した地域もあるが、新設は続くと見ている。 ◆改善要望 根拠法は、施行5年をめどに必要な見直しを検討するとしている。それに当たる25年に向け作業が本格化する。奄美の組合の事務局長らは、派遣職員の柔軟な働き方の容認を求める。 「正社員が条件になっているが、もっとライトなバイト派遣もできないか。週3回勤務なども可能にしてくれるとありがたい。Uターン者や未経験者などを地域の労働力としてより幅広く生かすことになるはず。引きこもりの人などの社会参加にもつながるのではないか」(とくのしま伊仙) 「無期雇用が条件だが、パート・アルバイトという派遣や働き方も認めてくれるとさまざまな面で幅が広がる。家族移住者の奥さんらに特に需要がある。障がい者たちの社会参加という面でも求められるのではないか」(えらぶ島づくり) それらの要望が反映されていくかは分からない。 中央会の坂本課長は「短時間勤務を認めてほしいという声はあるが、国とすればその地で生活基盤を確保してもらおうという事業なので、常用雇用を原則にしている。短時間勤務まで広げると収拾がつかなくなると踏んでいるのではないか」と指摘。一定の業務経験を必要とする組合の事務局長・派遣元責任者については「要件緩和を求める声があるが、一般の民間派遣事業者にも関わってくる問題なので、特地事業だけ緩和ということにはならないだろう」と話す。 坂本課長は、離島組合への配慮項目として住居確保と移転費用を挙げる。移転については「首都圏から100万円近くかかったという例もある。単身なら家財道具を車に積み込んでということが可能でしょうが、家族となるとそうはいかないだろう」。 えらぶ島づくり事業協組事務局長、金城真幸さん(55)は「コロナ禍では一種の移住ブームになった。それは収まったが、移住希望者は一定数存在する。その争奪戦になっている。数字としては上がっていないが、奄美群島内でもそうだろう。来てくれた人がキャリアアップできるような仕組みを充実させたい」と話す。さらに「日本の人口はどんどん減っていく。一定規模の外国人移住者が必要になる。そういう外国人移住者を迎えられるようにするべきだろう」。 ◆心得 中央会の坂本課長は、組合設立に当たっての留意事項として関係者に次のように語っている。 ▽事業者には「人手不足の解消につながるかも知れないが、この制度は安い労働力を確保するためのものではない。地域の人口対策の事業でもあり、市町村と協力してやってほしい」▽市町村には「組合事業者でつくったのだから、あとは組合でやってくれではなく、いくら仕事があっても住む所がなければできない。特に住宅問題については少しでも解決できるよう、組合事業をバックアップしてほしい」▽全体には「人の定着は待遇もそうだが、地域にどう溶け込むか。地域の方が温かく迎えてあげることが大切だと思う」 とくのしま伊仙まちづくり協組の組合員事業者・おもなわこども園は、受け入れた派遣職員のスキルアップにも力を入れる。園長の松澤尚明さん(47)は短く、こう言い切った。「島を選んでくれた。大事にしないと」