それでも「トランプ信者」が減らない理由 宗教学者が解説する人間の本性とは
A:トランプが自分の意図に正直であることには同意します。そしてこれが問題なのです。アメリカには、1990年代初頭に冷戦が終結して以来、超大国として世界を支配してきたことで培われた、アメリカは例外的な存在であるという非常に強い感覚があると思います。そしてこれもまた、アメリカ人のアイデンティティーの一部であり、アメリカは例外的な国であるという感覚があります。でも我々は例外的な国ではありません(笑)。 しかし、ドナルド・トランプがこれほど多くの人々にアピールしていることに多くの人々が驚いている理由のひとつは、ここではそんなことは起こり得ないというような感覚だと思います。でも、実際に起きています。トランプに従う人々は、彼の言っていることを理解しています。彼が約束していることを理解しています。彼が発信しているメッセージをきちんと理解しています。あまり注意を払っていない有権者の中には、選挙戦の雰囲気に流されて、ああ、トランプは中絶禁止や高い関税に賛成なんだな、とか、たまたま自分がトランプに対してつけた優先順位の高い政策についてだけ、理解している人もいると思います。しかし、彼のコアな支持者、支持基盤にとっては、トランプが何を約束しているのかよくわかっています。トランプはキリスト教の大義を擁護すると明確に言っています。 アメリカではキリスト教徒が多数を占めているにもかかわらず、特に保守的なキリスト教徒、保守的なカトリック教徒、保守的な福音主義者の間で、<アメリカではキリスト教徒が迫害されている>という非常に一般的な感性があり、トランプはそこにつけこんでいます。私はクリスチャンですが、アメリカでは迫害されていません。 クリスチャンに対する迫害は広まっていません。一部の政府高官が国民の大多数を迫害して回るのは政治的に馬鹿げています。アメリカで白人が迫害されていると言っているようなものです。白人は人口の大多数を占めています。白人は権力を持っています。クリスチャンは人口の過半数です。クリスチャンが力を持っているのです。しかしトランプは、多くのキリスト教徒が抱えている迫害意識につけこんでいます。 トランプはまた、白人の不安についても語っています。つまり、我々は今、急激な人口構成の変化を経験している国です。1990年までは、米国人口の約90%がクリスチャンでした。現在では、どの調査を見るかによって異なりますが、64%か63%程度にまで減少しています。1990年まで、少なくとも1990年の国勢調査では、米国人口の4分の3以上が白人でした。それが2020年の国勢調査では58%以下になっています(ヒスパニック系白人を除く)。 学術的な観点や政治学的な観点からこのことを語るとき、これに対する用語があります。それは「脆弱な多数派」と呼ばれるものです。アメリカではキリスト教徒や白人がまだ多数派ですが、その多数派は消えつつあり、縮小しつつあります。民主主義において多数派が最も危険なのは、多数派が権力が自分たちから離れていくと感じるときです。ドナルド・トランプがMake America Great Again(MAGA「アメリカを再び偉大な国に」)運動全体を支持している背景には、白人多数派とキリスト教多数派が感じているこうした不安と、自分たちの力を取り戻し、国を取り戻したいという願望があります。MAGAの約束とは、アメリカを再び白人優位、キリスト教優位の国にすることではないのか? それが基本的なアピールです。 だからといって、それがドナルド・トランプに投票するすべての人のアジェンダというわけではありませんが、トランプ・ムーブメントの根底にあるもの、つまり彼が訴えかけているものは、こうした文化的な不安、宗教的な不安、人種的な不安であり、彼はそうした集団の間で、国が自分たちから離れていくのではないかという恐怖を煽っているのです。そしてトランプは、ノスタルジーに訴え、昔はもっとシンプルだった、昔はもっと簡単だったと言っています。でも、昔はもっと単純だったのではありません。昔は簡単ではありませんでした。ドナルド・トランプが構築しようとしている神話上のアメリカは存在しなかったのです。 彼らのビジョンの中で、復活させる必要のある偉大なアメリカとはいつだったのでしょうか? 黒人が他の人々と同じように投票できなかった1950年代でしょうか? 女性に参政権がなかった1900年代初頭でしょうか? 文字通り黒人が奴隷にされ、人間の家畜として捕らえられていた1800年代でしょうか? アメリカの歴史において、人種や宗教的優位性、ジェンダー、家父長制など、今まさに前面に出てきている諸問題によって複雑化されることのない、誰もが平等であるような美しい包摂の瞬間は存在しませんでした。私たちはアメリカの歴史上、人口動態が大きく変化している今を生きているのであり、その根底にあるのは不安なのです。つまり、1960年代以降、アメリカ文化は急速に変化しています。そして、トランプのMAGA運動、つまりトランプが訴えていることの一部は、文化的な反発の一種であり、私たちが経験したこの種の人口動態や文化的な変化に抵抗しようとしているのです。 ■トランプは救世主 Q:福音派キリスト教徒のトランプ支持者は、トランプを救世主と考えているのでしょうか? A:多くの人がそう考えています。では、なぜそうなのか、説明しましょう。ドナルド・トランプが2015年6月に初めて大統領選への立候補を表明したちょうど10日後に、連邦最高裁判所は同性婚に関するオバーゲフェル判決を下し、すべての州で同性婚が合法化されました。 福音主義キリスト教徒、宗教右派、キリスト教民族主義者にとっては、これが原因でした。彼らは同性婚を阻止し、最高裁を自分たちのような裁判官で固め直すことに注力していました。同性婚の合法化は福音主義キリスト教徒にとって、まさに悲しみの瞬間でした。彼らの政策課題は、彼らから見ればすべてが間違った方向に流れていました。そして、彼らが育成に多大な投資をして判事を据えた最高裁が、彼らの望みとは正反対の判決を下したのです。 そして、その深い弱さの瞬間に、ドナルド・トランプが登場したのです。そしてドナルド・トランプは、福音派の有権者を獲得する必要があることを認識し、友人の一人で、牧師であるポーラ・ホワイト・ケインに連絡を取り、彼女に福音派との連絡役を依頼しました。 ポーラ・ホワイト・ケインは従来の福音派ではなく、テレビ伝道者であり、メガチャーチの牧師であり、カリスマ的な繁栄の福音伝道者であり、ほとんどの福音派が受け入れないような女性牧師です。それで彼女は、自分が知っている風変わりでフリンジ的(中心からはずれた)人物や、自分がつるんでいるような人々を集め始めました。それが2015年秋、ドナルド・トランプと会わせるために彼女が連れてきた指導者たちです。 そしてこれらの集会のいくつかで、そこにいる人たちの一人、彼の名前はランス・ウォールナウで、彼らの理解では彼は預言者です。彼は文字通り、神の言葉を聞き、人々に神の言葉を話すと信じられています。そして彼は、ドナルド・トランプに会ったときに預言を受けたと信じています。そしてその預言とは、ドナルド・トランプはイザヤ45章のキュロスであり、第45代大統領はイザヤ45章のキュロスになるというものです。 聖書のイザヤ書には、キュロスという人物についての記述があります。キュロスはペルシャ帝国の皇帝で、キリスト教が始まる前の紀元前6世紀、ユダヤの民はバビロンに流されていて、バビロン帝国に征服されていたのですが、キュロスとペルシャ人がバビロン帝国を征服します。そしてキュロスは、エルサレムを再建し、神殿を再建するためにユダヤの民を送り返した皇帝です。 イザヤ書45章には、神がキュロスに語りかけ、キュロスを「神の油注がれた者」と呼ぶ箇所があります。ヘブライ語で油注がれたとはマシャハのことです。そこからメシア(救世主)という言葉が生まれました。つまり、イザヤ書のビジョンの中でキュロスは世俗的な救世主であり、絶対的な救世主ではありませんが、救世主のひとりです。彼はイスラエルの救世主のひとりです。 つまり、ドナルド・トランプは良いクリスチャンではなく、神の民の一員でもないですが、クリスチャンを救うため、アメリカのクリスチャンを解放するために神によって油注がれた世俗的な指導者なのです。