「踊りの人」が繊細な芝居で見せた新境地 宝塚星組・暁千星の主演舞台「夜明けの光芒」
宝塚歌劇団星組の男役スター、暁千星主演による舞台「夜明けの光芒」が20日に終演を迎えた。原作は英文豪チャールズ・ディケンズ(1812~70年)の代表作「大いなる遺産」。英ビクトリア朝時代の人間の暗部をあぶり出すような作品だ。卓越したダンス力とアイドル性を持ち、明るさが魅力の暁にはそぐわないように思えたが、屈折を抱えた人物の内面を繊細に表現。「踊りの人」からの脱皮を印象付ける公演となった。 【場面カットをもっとみる】「夜明けの光芒」星組・暁千星、稀惺かずとら(全5枚) ■前回公演は剣幸主演 主人公は、貧しい鍛冶屋の義兄夫婦のもとで育てられている孤児ピップ(暁)。謎の資産家ミス・ハヴィシャム(七星美妃)宅に、養女エステラ(瑠璃花夏)の遊び相手として呼ばれ思いを寄せるが、身分の差から断念。長じて鍛冶職人になったピップが、匿名の人物から莫大な資産を受け取ることになり、上流社会で紳士を目指す。 宝塚では平成2年、剣幸主演の月組以来の上演で、今回は鈴木圭脚本・演出による新たな舞台としてタイトルも改め、6月3~8日に大阪・梅田芸術劇場、14~20日には東京建物ブリリアホールで上演された。 ■制御できない感情を表現 最大の見どころは、ピップがロンドンに出て、あれよあれよいう言う間に〝紳士〟となる変貌ぶりだ。 大金にものを言わせて浪費を重ね、賭博や酒にも溺れる。過去を断ち切るかのように、田舎から訪ねてきた育ての親、義兄夫婦すら追い返す。上流社会で虚飾にまみれる中、ライバル的存在のドラムル(天飛華音)が現れ、ピップの心象風景に「闇」(天飛の2役)も登場するようになる。 この「闇」とライバルを重ねた演出が面白い。虚勢を張るピップのどす黒い部分があらわになると、闇とその手下のような黒ずくめのダンサーたちがピップを取り囲み、地獄に引きずり込むようなダンスを見せる。正に〝闇落ち〟したピップだが、美しく成長したエステラと再会する-。 暁は、「大いなる遺産」を手にして以降のクラシカルなスーツ姿が美しいが、身なりと反比例するようにすさんでいく男の不安定さをリアルに表現。ライバルへの嫉妬心、出自への劣等感などどす黒い感情を抱えながら、初恋相手を一途に思い続ける純情さもあり、制御できない感情の揺れを丁寧に見せた。 一方で、得意のダンスでも本領を発揮。空色の衣装をまとったフィナーレではソロダンスで魅了した。
雑誌「歌劇」6月号に掲載された演出の鈴木との対談では「凝り固まっていた気持ちや芝居の仕方みたいなものが解された」と話していた暁。この作品が、自身の演技を一から見直すきっかけになったのではないか。ますます立場の重くなった暁が、踊りはもちろん、芝居でも立場にふさわしい姿を見せた公演だった。(飯塚友子)