介護報酬改定に訪問介護現場から大反発「“賃上げさせない”と言われているような…」 倒産件数が過去最多、“十分な介護”維持のためには
訪問介護の利益率(収支差率)は7.8%だが、戸別訪問でサービス提供をしている場合は6.7%、同一建物内でもサービスを提供している場合は9.9%と、差がある。「基本報酬が下がってしまうのだったら施設に移ろう、という方も出ると思う」。また、「“賃上げはないんだ”というメッセージが伝わってしまい、これから介護に就く人がいなくなってしまうのではないか」と懸念を示す。 伊佐議員は「収支差率が高いといっても、決して経営は楽ではないと思う。調べてみると、支出が減っているところが多かった。つまり、人が集まらず、人件費が減ったことでプラスになっている。処遇改善加算を実はとっていないという所も多いので、ここを改善するのが1点。また、それ以外にも認知症加算だったり、ネットワークを整備して効率化すると加算が付いたりする。あるいは補正予算だ。トータルでしっかりと応援していきたい」と述べた。
人手不足について、制度アナリストで元経産省キャリア官僚の宇佐美典也氏は「現場ではケアマネージャーがどんどん辞めていく。それなりに高度な技能や知識が必要なのだが、代わりがいない間にケアが必要な方の体調は悪くなっていき、医療の領域へ入っていく。これを止めるには、介護士や看護師もなるべく長くいてもらわないといけないが、グルグルと入れ替わっていて、“貢献しよう”という善意に頼るシステムになってしまっている。“訪問介護は利益率が高い”というのも当たり前で、そういうところしかやっていけないということ。残るのは都市部でサービス付き高齢者向け住宅をやっているような事業者で、地方はどんどん切り捨てられる」と指摘した。
■膨らみ続ける介護費用 「利用者目線も、事業者目線も大事」だが…
介護保険から事業者に支払う費用は、2018年度の10.7兆円から、2025年度には15.3兆円、2040年度には25.8兆円に膨らむとの見通しが出ている。 近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「人口動態からも確実にわかる問題。長期的な視点が欠けている」と苦言を呈する。「厚生労働省がらみだと、医師会など既存の団体を入れて議論する。仕組みをいじることにみんな反対するので、なかなか思い切った政策ができない。後期高齢者の人口予測に対して、介護士は何人必要で確保するためにどうするのか。超党派でこういう議論をし、20年、30年計画で進めてほしい」。 伊佐議員は「なぜこういうことが起こるかというと、同じパイを奪い合っているからだ。高齢化が進めば社会保障の予算は増えていくが、毎年それを高齢化の人口の伸びだけに押さえろと叩く。何かやりたいことがあったら他のところを我慢しろ、というゼロサムゲームだ。今までは何とかなったが、インフレになり、しかもこの枠に子育て支援の3.5兆円まで入ってきた。このままだと社会保障はにっちもさっちもいかなくなる」と危機感をあらわにする。