野茂英雄は「もう日本に帰れない」「危険な賭けだ」メジャー挑戦表明に日本球界から悲観論が噴出…ドジャース・野茂フィーバー前史
スッキリした形で行ける。よかったです
それが野茂にとって、夢の世界へ旅立つために必要な“パスポート”となった。 「不安は、全くありません。球団に認めてもらったし、すごく理解してくれた。本当に感謝しています。これでスッキリしましたし、スッキリした形で行ける。よかったです」 当時、サンケイスポーツ大阪の「猛牛番」だった私は、大阪から東京へと急きょ、取材の舞台が移ることになった。
野村沙知代のチームを訪問
野茂が東京を拠点に練習を行い、個人トレーナーもつけていることも分かった。野茂を獲得したいというメジャー球団が、野茂との交渉に入るための前段階である「身分照会」の手続きが取られるのも、日本野球界の“法の番人”ともいえるコミッショナー事務局を通してになる。さらには、野茂のメジャー挑戦の“仕掛け人”でもある代理人・団野村の動向もマークする必要があった。 ただ、手がかりもなければ、野茂や団野村に繋がる親しい関係者へのコネがあるわけでもない。それこそ丸腰のプロ野球1年目の記者は、断片的な、わずかな情報だけを頼りに、空振り覚悟で、とにかく動き回るしかなかった。 29年前の手帳を繰り直してみると、当時のバタバタぶりが蘇ってきた。 野茂のメジャー挑戦の表明会見の翌日、1月10日に早速東京へ向かっている。野茂の練習拠点だという神宮室内練習場へ足を運び、団野村の母・野村沙知代がオーナーを務め、少年野球チーム「港東ムース」で、団野村がコーチをしていると聞き、チームの試合が行われていた多摩川グラウンドにも行ってみた。
突然の訪問にも真摯に対応する団野村
「まだ、何もありませんよ」「メジャーとの交渉もこれからです」「練習パートナー? そういうのも、ちゃんと考えていきます」 団野村は、初見の記者のぶしつけな直撃取材に、少々困惑の表情を見せながらも「ここまでは電車で来たんですか?」とグラウンドから最寄り駅まで自らの愛車で送ってくれた。その車中で、丁寧に質問にも答えてくれた。
親心から言えば危険な賭け
時間が空けば、コミッショナー事務局へ足を運んだ。当時の事務局長・金井義明は元スポーツ紙記者でもあり、ストライキ中だったメジャーの現状、野球協約や日米間での選手移籍に関するルールなど、懇切丁寧に解説してくれた。 さらに、私見と前置きした上で、現状の“混迷ぶり”も語ってくれた。 「だって、近鉄がこれ(お手上げの意)だ、って言ってるんだもん。他への影響は大きいですよ。球団がしっかりしていないと『こうなりますよ』と言えます」 「FA選手とは状況が違う。代理人の介在が発生する恐れがありますし、それが一番の問題点。防げるものを防げなくなりました。“協約論”で言うなら、日本に戻るときは近鉄に戻ることになる。でも帰って来て、また楽しくやれるのかなって思うよ。万一、向こうで何かがあって、どこへ助けを求めるんだろうね? 彼はこれからが大変だよ。頼りになるのは一人(代理人)だよ。いい人ならいいんだけど、親心から言えば危険な賭けだね」
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