「ヒヤリ・ハット」が多発する梅雨の歩道…糖尿病の人は特に注意が必要
梅雨に入り路面がすべりやすい季節がやってきた。若い頃は路上で転ぶなんてことはなかったし、たとえ転んでも受け身が取れて大けがをすることはなかった。しかし、足腰が衰えつつある中高年は転んだが最後、骨折して長期入院、悪くすると亡くなることもある。まして、神経障害で足が踏ん張れず、骨強度に問題が起きやすい糖尿病とその予備群は注意が必要だ。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。 ダースレイダーさんは糖尿病で脳梗塞に「左目の視力も失って…」 ◇ ◇ ◇ 「道路での転倒を軽くみてはいけません。令和3年の人口動態統計によると、9000人以上が転倒により亡くなっていて、これはこの年の交通事故死の2倍近くにのぼります。糖尿病の人が転倒しやすいことはさまざまな研究データから明らかです。健康な人に比べて1型糖尿病の人は1.6~2.5倍、2型糖尿病の人は1.3倍程度転倒リスクが上がるとの報告もあります」 雨で路面が濡れて滑りやすい今の季節は健康な人でも転倒事故が多い。興味深いのは、傾斜のある歩道でなく、平らな歩道での転倒が多いこと。 実際、都内在住の15歳以上の男女3000人のアンケートをまとめた東京都生活文化スポーツ局のヒヤリ・ハット調査「降雨時の身の回りの危機」(2013年)によると、降雨時にケガをしそうになってヒヤリ・ハットしたり、受傷した経験のある人が2370人いたという。男女ともに傘に次いで履物(足元)にまつわるリスクが高く、それを経験した場所は傾斜のない歩道が男女ともトップで、傾斜の有無に関係なく歩道が男性で全体の半数、女性で4割を占めた。 滑って転倒するなど履物を原因として受傷した人は男性47人、女性72人で、それが原因で医療機関を受診したのがそれぞれ、12人と25人、入院は男性1人だったと報告されている。 「糖尿病の人は、転倒リスクに対してより注意する必要があります。健康な人に比べて足や下肢の筋量、筋力、筋肉の質が低下するうえ、足そのものや足の指の柔軟性が低下して転びやすいからです。糖尿病が進んだ人は食事から得た糖質を細胞に取り込みにくくなり、その多くを体外放出してしまいます。代わりに脂肪や筋肉を分解して生じる脂質やタンパク質からエネルギーをつくり出す異分化が進むため、筋肉がつきにくくなる。さらに糖尿病の3大合併症である神経障害を患っている人は、局所的な筋萎縮を起こすなどしてバランスを崩しやすく、歩行障害を起こしやすいのです。また、1型糖尿病の人や2型糖尿病で投薬治療中の人は飲酒などにより無自覚性低血糖に陥って転倒する場合もあります。さらに網膜症や白内障の進行により、降雨時は足元がいつも以上に暗く、見えづらくなることも原因となります」 ■骨折リスクを上げる飲み薬も そのうえ、糖尿病の人は転倒した際、骨折しやすいこともわかっている。 「糖尿病は昔から続発性骨粗しょう症(骨を弱くする疾患や薬によって引き起こされる骨粗しょう症)の基礎疾患として知られています。骨強度は、骨密度(量)7割、骨質(構造、材質)3割で決まるといわれていますが、糖尿病の人は骨強度が弱く、糖尿病でない人に比べて骨折しやすいといわれています。また、糖尿病の薬の中には骨折リスクを高めるものもあります」 2型糖尿病の飲み薬で配合剤にも多く使われているチアゾリジン系の薬剤は、近年の大規模臨床試験から閉経後の女性の骨密度の低下を伴わない骨折リスクを高めることが報告されている。 では、転倒しないためにどうすればいいのか。 「適切な糖尿病の治療を行うことはもちろんですが、外出時の靴を工夫することが必要です。前出の降雨時の身の回りの危機に関するアンケートでは滑って転倒しそうになった、あるいは転倒したときの履物は男女とも革や合皮の靴で、会社の行き帰りの時間帯が多かった。なので通勤用に靴底に凹凸があって滑りにくい素材を使った靴を選ぶといいでしょう。できれば靴店で雨の日でも滑りにくい靴を紹介してもらうといいでしょう。また、自宅で足や足の指の柔軟性を保つための運動をするのがいいと思います」 たとえば、足の指でグー、チョキ、パーをつくる、あるいは床に雑巾を置き、それを足の指で押さえて拭き掃除をして、足の血行を良くするのも手だという。 「糖尿病の人はウオーキングでやせる努力をしている人もいますが、自身に転倒リスク・骨折リスクが高いことを自覚し、雨の日の過ごし方を考えることも必要かもしれません」