あんなに好条件だったのに…「日本製鉄に買収してほしい」USスチールの従業員たちがそう切望する本当の理由
■買収は雇用を守る「最後の希望」だった 米国鉄鋼労働者組合クレアトン支部2227の副代表ジェイソン・ズガイ氏は壇上で、「この素晴らしい取引は今後数十年にわたって私たちの雇用を確実なものにする」と強調した。さらに、「政治家たちには、この取引が私たちの仕事、家族、そしてコミュニティにどう影響するか、理解してもらう必要がある」と訴えた。 日本製鉄はモンバレーの3工場に対し、少なくとも10億ドル(約1600億円)を投じて設備を更新する計画を書面で約束している。USスチールもこれに賛同し、「(米政府の介入で)取引が破綻すれば、給与水準の高い数千人分の組合員らの仕事が危険にさらされることになる」と警告を発していた。 ワシントン・ポスト紙によると、労働者たちの支持は、同地域にとどまらない。アラバマ、インディアナ、ミネソタの各州にあるUSスチール施設の労働者たちも、ビデオ中継を通じて集会に参加し、買収支持を表明したという。 地元自治体からも支持の声が上がる。クレアトン市のリチャード・ラッタンジ市長は集会で「我々はこの取引を成立させる必要がある。そうでなければ、モンバレーは死んでしまう」と危機感を示した。 ■不安より投資への期待が上回る 仮に設備の更新が行き詰まり操業に支障を来せば、雇用喪失を招きかねず、地域経済全体への打撃となる。 クレアトン工場の労働者であるクリス・ディペルナ氏は、同紙の取材に応じ、「私は工場近くのガソリンスタンドで買い物をし、ピザ店でランチを注文しています。私の仕事がなくなれば、ここに来る理由もなくなるでしょう」と買収不成立への懸念を示していた。 当然、日本という外国からの企業がUSスチールの所有権を取得することに対し、一定の不安を抱く従業員もいる。だが、ワシントン・ポスト紙は、投資への期待が上回ると指摘する。 かつてUSスチールの溶鉱炉で働いていたボブ・フート氏は、同紙の取材にこう語る。 「私は外国企業による所有を好ましく思いません。しかし、資金を注入し、設備を改善し、雇用をこの地域に維持できるのであれば、私が知る限り、ほとんどの人が賛成しています」 ■「他のどんな企業にも期待できない好条件」だったのに… さらにUSスチールの経営陣も、日本製鉄による買収の実現により、必要な投資と技術改善が見込めるとして前向きな姿勢を示していた。