【MLB】14年ぶりにMLB監督の年俸最高額を更新したカウンセル監督
2007年ヤンキースのジョー・トーリ監督は年俸750万ドルで、メジャーの監督としては最高給だった。その年の選手の最高年俸はジェイソン・ジアンビーの2342万ドルであった。その後、選手の年俸は右肩上がりで22年マックス・シャーザーが4333万ドルを手にしたが、監督は上がらないどころかむしろ下がっていた。 レンジャーズを世界一に導いたブルース・ボウチーはジャイアンツの監督時代、年俸は600万ドルだったが、今季レンジャーズで受け取っているのは450万ドルである。年俸300万ドル以上は10人だが、100万ドル以下も少なくない。 監督の年俸が上がらなかったのは、近年メジャー球団では編成本部長やGMのほうが権限が大きく、しばしば給料も上だからだ。メッツの新編成本部長デビッド・スターンズは5年総額5000万ドルで契約した。監督は中間管理職で、昇給を求めると、ほかの人を探すぞと脅されてしまう。そして新人監督は、メジャー選手の最低年俸80万ドルより安い金額であっても、雇ってくれてありがとうと喜んで仕事を受けてしまう。 MLBは年に108億ドルの収益を上げる巨大な娯楽産業だが、監督の平均給料は23年に50%も下がったそうだ。「この国のどの産業でも、CEOや社長のサラリーが50%も下がるなんてほかにはない」と関係者はあきれている。そんな中、ブリュワーズのクレイグ・カウンセル監督への期待が高まっていた。 9シーズンで707勝625敗、過去6シーズンは地区優勝3度で、5度チームをポストシーズンに導いた。ブリュワーズとの契約が切れ、このオフFAになる。評判はすこぶる良かった。結局4球団が争い、カブスと5年総額4000万ドルで契約した。年俸800万ドルで、トーリ監督を上回った。驚きだったのはナ・リーグ中地区の宿敵カブスを選んだこと。理由はジェド・ホイヤー編成本部長の熱意だった。ホイヤーはカウンセルの能力の高さを毎年痛感させられていた。16年に世界一に輝き、17年も6ゲーム差で地区を制したが、ブリュワーズが年々手ごわくなってきていた。 そして18年は162試合が終わった時点で並ばれ、タイブレークの試合で敗れた。19年は選手のサラリー総額はナ・リーグトップで、得失点差も+97だったのに、+3のブリュワーズに5ゲーム差を付けられた。それはカウンセル監督が選手たちの能力を最大限に生かすことができ、試合中の采配も的確で、チームを一丸にできているからだと感じていた。 そして23年もカブスは得失点差+96なのに83勝79敗、ブリュワーズは+81で92勝70敗、9ゲーム差をつけられた。どうしてもカウンセル監督の力が必要だと決心した。 一方、カウンセル監督も選手時代、選手会の活動に熱心だったこともあり、あとに続く人たちのためにもメジャーの監督の年俸を上げておかないといけないと感じていた。ミルウォーキー郊外で育ったため、ブリュワーズのほうが居心地が良いのだが、オファーは年俸500万ドルで差額が大きかった。ミルウォーキーの人にヤジられるのを覚悟で、あえてシカゴに移ったのである。 文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール