「果物ナイフを首に突きつけ…うつになり始めた祖父が夜中に」高橋里華が直面した介護の現実「大きな後悔と引き換えに」
取り除ける苦痛は、いますぐ取り除いてあげようと思った私は、そのまま祖父を病院に連れて行きました。管をつける処置を受けると排尿でき、帰りの車で祖父は「本当にすまない」「これからはもうしない」と言ってくれました。「大丈夫だよ、何があっても一緒にいるからね」と話しながら、ふたりで家に帰ったのを覚えています。 その後、祖父はあっという間に悪化してしまい、旅立ちました。あの夜、私は祖父を引き留めることができましたが、衝動的に道連れにされてしまうケースもあるだろうなと思います。
■後悔しないようにと思っても「介護に理想はない」 ── 高橋さんのブログには「祖父母の介護を通して、大きな後悔と引き換えに、さまざまな経験を得た」と書かれていますが、いま振り返って、どんな後悔がありますか。 高橋さん:介護が始まった当初は知識がなく、「いまなら、こうしてあげられたのに」という後悔がたくさんあります。たとえば、祖母は亡くなる半年前に糖尿病で右膝下を切断したのですが、「私にもっと知識があれば、防げたかもしれない」と、悔いています。
── 後悔のない介護は、実現可能なのでしょうか…。高橋さんが考える理想の介護は、どのような介護ですか? 高橋さん:理想は介護中も家族みんなが、何事もなく笑顔で毎日を過ごせる状態が続くことですが、うまくいかないのが現実ですね。 病状が急変することもあれば、新たに病気が見つかることもあります。認知症の場合は、昼夜が逆転して、人柄さえ変わってしまうことも。介護される人の体調に合わせて、ベストな対応を繰り返す生活が続くなか、介護する側の体調や気持ちにも当然、波があってすごくつらいときも、悲しくなるときもあります。
だから、はっきり言って、介護に理想はないんじゃないかな。介護生活に入った段階で、病気が完治して、自力で何でもできる日が来ることはありません。徐々に悪化する毎日を受け止めながら、毎日進んでいくしかない。それが介護の現実ですね。 PROFILE 高橋里華さん たかはし・りか。1972年、埼玉県生まれ。15歳で国民的美少女コンテストに出場し、入賞。芸能界デビューを果たす。1992年度フジテレビビジュアルクイーン。2006年に結婚すると同時に祖父母の介護を開始、その後義父母との同居、介護を続ける。2020年にYouTubeチャンネルを開設し、2021年には『じいじ、最期まで看るからね』(CCCメディアハウス)を出版。二児の母。
取材・文/笠井ゆかり 画像提供/高橋里華
笠井ゆかり