プーチンを追い詰め、殺害された活動家アレクセイ・ナワリヌイが命がけで書いた告発手記
「政治への失望」が抵抗の闘志に
ソ連崩壊後に、せっかく自由が芽生え始め、国家の成長の兆しが見えたにもかかわらず、強欲な政治家らが裕福なオリガルヒにたかり、持ちつ持たれつの不正の構造が生まれ、成長できたはずの20年は幻となる。そして行き着いたのが、現在のロシアの状況なのだとナワリヌイは指摘する。「プーチンが大統領に就任すると、私は断固抵抗すると心に決めた。ああいった類の人間に祖国を率いてほしくなかった。私の思いは揺るぎなかった」 国家の罪と嘘を暴き、不正を追及するナワリヌイは多くの支持を集めていく。ところがそれに比例するように、政府による圧力は高まっていった。政治集会を開けば取ってつけたような罪で不当逮捕されるなどの妨害があり、モスクワ市長選出馬ではSNSを駆使して善戦するも敗退、大統領選は出馬自体を阻まれた。
「すべては祖国への愛ゆえ」
それでも、ナワリヌイがロシアを見限ることはなかった。「祖国」と「国家」は分けて考えるべきというのが彼の信条で、祖国としてのロシアを誰よりも愛していた。 だからこそ、悪の政権に終止符を打つために、汚職と不正を暴いた動画を次々に公開し、各地で政治集会を開き、徹底抗戦を続けてきた。選挙では自身の出馬が政府から許可されないために、ときには親プーチン政党の候補ではない2番手候補に投票しようと、いわゆる「戦術的投票」を呼びかけたのも、ひとえにプーチン政権を支える与党「統一ロシア」を政治から追い出すことが目的だった。 すべては祖国ロシアへの深い愛ゆえの行動だ。「ウラジーミル・プーチンを憎んでいるかと聞かれたら、ええ、憎んでいますと答える。でもそれは、私を殺そうとしたからでも、弟を刑務所送りにしたからでもない。ロシアからこの20年を奪ったからだ」という言葉にも表れている。
今の日本に必要な「一冊」
毒殺未遂事件後にドイツで治療・静養後、あえて帰国しない道もあったはずだが、2021年1月、彼は急ぐようにロシアに帰国し、そのまま逮捕され、2024年2月の獄中死まで外に出ることはなかった。 まるで芝居のような裁判で、適当な罪で起訴した検察や不当な判決を淡々と言い渡す裁判官らを前に、「あなたがたはなぜいつも目を伏せ、じっとうつむいてばかりなのか。恥ずかしくないのか」と迫る。そして、反政権という意味では同じ立ち位置のはずの外国の野党議員に対しては、「(ロシアでは)選挙運動で集まるたびに逮捕されて1ヵ月勾留されることが日常茶飯事。そんな環境であなたがたは政治家としてやっていく覚悟があるか?」と問う。覚悟なき政治家が蔓延する日本でも、今こそ必読と言える一冊である。 字幕:星 薫子
斎藤 栄一郎(翻訳家・ジャーナリスト)