FC東京が執念ドローも首位陥落。初V呪縛をどう解放するか。「自分たちがやってきたことでしか結果はついてこない」
念ずれば通ずる。FC東京の最古参選手、32歳のDF森重真人の心の叫びが、黒星を喫する瞬間が目の前にまで迫っていた土壇場で奇跡を手繰り寄せた。 「クロスが上がった時点で目の前が空いていたので、ボールがこぼれてくれと思っていた」 冷たい雨が降るホームの味の素スタジアムに湘南ベルマーレを迎えた、23日の明治安田生命J1リーグ第32節。キックオフ時点で首位だったFC東京が1点のリードを許したまま、試合は5分が表示された後半アディショナルタイムを終えようとしていた。 最終ラインから岡崎慎が一縷の望みを託して前線へクロスを送る。ベルマーレの選手たちが自陣深くに下げられた結果として、バイタルエリアに大きなスペースが生じた千載一遇のチャンスを、岡崎とセンターバックを組む森重は見逃さなかった。 ハーフウェイライン付近から相手に気づかれることなく、スルスルとポジションを上げていく。果たして、森重の心のなかで繰り返された「こぼれてくれ」に導かれるように、ベルマーレのDF岡本拓也のヘディングに弾き返されたボールが目の前に転がってきた。 相手ゴールのほぼ正面。距離にして約20m。森重を止めにくるベルマーレの選手は誰もいない。それでも、直接フリーキックのキッカーを任された経験をもつ、足元の技術に絶対の自信をもつ男は焦らない。ワンバウンドしたボールの落ち際に、タイミングを合わせて飛び込んでいった。 「上手くミートさせるために、ああいう回転になりました」 森重が振り返った「ああいう」とは、ボールを右足のアウトサイドにヒットさせて、右方向へ弧を描きながら逃げていく軌道を描かせたことを指す。自身の体勢と空いているコース、そして相手キーパー富居大樹の立ち位置のすべてを瞬時に判断して、利き足の右足をコンパクトに振り抜いた。 「ゴールの枠には入っていたので、あとはシュートの軌道を見ながら、入ってくれと願っていました」 森重の胸中で「こぼれてくれ」から、「入ってくれ」へと変わった叫びがボールに乗り移る。またもや念ずれば通ずる、が具現化される。必死にダイブする富居の左手の先をかすめた一撃は、ワンバウンドして右ポストに当たり、ゴールのなかへ吸い込まれていった。 「自分だけじゃなくて、みなさんの目にも明らかに硬いというか、バタついていると感じ取れたはずなので。優勝がかかっていることも含めて、いろいろな要因があったと思う」