123万円でもうれしいが…年収の壁協議継続、パート従業員やきもき
パートなどの収入でも所得税がかかり始める「年収の壁」。自民・公明の与党は2025年度の税制改正大綱に壁の年収額をこれまでの103万円から123万円に引き上げると明記した。ただ、178万円への大幅引き上げを求める国民民主党との協議は継続しており、来年1月召集の通常国会に諮られる税制改正法案段階では123万円よりも引き上げ幅が上方にスライドする可能性が残る。年明けの勤務シフトを眺めながら落ち着かない気持ちで年の瀬を迎える人も多くなりそうだ。 【表でわかる】103、106、130万円…それぞれの「壁」でこう変わる 神奈川県中部に暮らすパート従業員の女性(29)は「103万円の壁」で、この12月に働き控えをした一人だ。通常の月は週3~4回働いていたが、そのままのペースでシフトに入ると年収が103万円を超えてしまうため、勤務する飲食店のオーナーに頼んで12月は勤務を計3回まで急減させた。 23年12月に大学時代の同級生と結婚し、関西地方から神奈川に引っ越した。24年7月には、約5000万円の35年ローンを組み、新築一戸建てを購入した。 救急救命士として働く夫は、24時間の2交代制で働く。休日も一般的な会社員とは違って、土日に固定されていない。 女性は以前、正社員として働いていたが、勤務中は常に緊張を強いられる夫を支えようと、結婚を機に退職した。当面、正社員で働くことは考えていない。 夫の年収は約650万円。まだ子どもはいないが、ゆくゆくは2人以上と考えている。子どもには好きな習い事をさせて大学にも行かせてあげたい。将来の教育費や家計の足しにと、近くの飲食店で働き出した。 ただ、年収が103万円を超えると配偶者控除から外れ、夫の勤務先から支給される扶養手当もなくなってしまう。 飲食店では働きぶりが認められて、時給も上がった。しかし、103万円以上は働けなかった。女性は「時給をあげてもらい、うれしいと思う半面、シフトに入れずに申し訳ないという気持ちもある」と複雑な心境をのぞかせた。 壁が103万円になったのは1995年。女性はこの年に生まれた。最低賃金は当時と比べて1・73倍になっている。 女性が高校時代に初めてアルバイトをした際の時給は750円だった。女性が生まれ育った県の最低賃金は、今では1000円を超えている。 スーパーで買い物をすると、米などの生活必需品も物価高を痛感する。女性は「夫の扶養の範囲内でもっと働きたいが、現状の103万円の壁のままだと働いても手取りが増えない」と嘆く。約30年にわたって制度が変わらなかったことについて、「政治家は国民の生活実態を知らなすぎるのではないか」と話す。 10月にあった衆院選で、国民民主は年収の壁を178万円まで引き上げると掲げて躍進した。一方、過半数割れした自民・公明の与党は、国会運営をにらんで国民民主と3党で「178万円を目指して、来年から引き上げる」ことで11日に合意。だが、20日に自公がまとめた税制改正大綱の来年度の引き上げ額は123万円にとどまり、反発する国民民主との協議は越年する見通しだ。 女性は「123万円でも上がるのはうれしいが、年明けに決着する金額はいくらなのか。そして次の段階的な引き上げがあるのなら、その時期がいつなのかも気になる」と気をもむ。「年収の壁は、社会保険制度なども絡んで複雑。一日も早く今の時代に合ったわかりやすい仕組みに整えてほしい」と話した。【遠藤浩二】