「堂本さんは生まれ持った才能がある」映画『まる』荻上直子監督インタビュー。本作への思いとは? 堂本剛の出演を熱望したワケ
約2年前からの熱烈なオファーと堂本剛さんとの対話
―――約2年前から熱烈にオファーをされたそうですが、どんな会話があったのでしょうか? 「ずっと『出てください!』とお願いしていたわけではありません。まずは物語の大まかな流れを書き上げてから、これで本当に堂本さんに出演していただけるかどうか、何度も話し合いを重ねました。堂本さんはとても忙しい方なので、移動中の車の中で3時間ほどお話ししたこともあります。その中で通信が途切れることもありましたが、堂本さんは丁寧に答えてくれました。それは、脚本の具体的な内容よりも、堂本さんがどのような視点で世の中を見ているのか、または1つのことに深く集中することがあるかなど、いわゆる一般的な質問を投げかけ、彼の内面的な部分を教えていただきました」 ―――実際に堂本さんをじっくり撮ってみていかがでしたか? 「堂本さんは、私が想像していた以上に、非常に繊細で純粋な方でした。それ以上に、想像を超えるほど真面目な人で、本当に人を思いやっている姿勢が自然と表れているように感じました」 ―――荻上監督から見て、役者としての堂本さんはどのように感じましたか? 「私自身が彼のことをよく知らなくても、注目してしまうように、堂本さんは、もともと有名になりたいとか、役者やアイドルとして成功したいという意図があるわけではないのに、自然と周りが注目してしまう。彼には生まれ持った才能があると思いました。 撮影中も、役を深く理解しようとする姿勢がとても印象的で、真摯に取り組んでくださっていました。シーンごとに毎回話し合い、相談しながら進めていく姿がとても頼りになりました」
意図しない解釈と、現代社会への皮肉
―――これまで、『かもめ食堂』(2006)や『めがね』(2007)のような、日常の中にある幸せを描いた作品とは異なり、本作は不思議な出来事に巻き込まれ翻弄される、これまでと一線を画した作品です。特に、前作の『波紋』(2023)からそのような傾向が強まっているように感じますが、作品作りにおいて、心境の変化などがあったのでしょうか? 「心境の変化ということではなく、単に歳を重ねて、自分の経験や、世の中の窮屈な部分がより見えてきてしまったということがあるように感じます」 ―――今回の作品のテーマのひとつでもある『円相』についてお聞きします。この作品では、究極の悟りを代表する芸術作品が描かれていますが、初めは知識がないまま無欲で書いたものが評価され、情熱を込めて作った作品が世間には受け入れられなかったという点に、アーティストとしての葛藤が表現されているように感じました。 「誰でも描けるじゃないですか。『まる』って。でも、芸術作品って、何を持ってそれが芸術なのか、本当に分からない部分が多いですよね。今の時代、例えばSNSやネットの世界では、子供がちょっと描いた絵が何億円という価値がつくこともある。なんだか危うい世界を、面白おかしく描いたらいいなと思ったんです」 ―――そのようなアイデアはいつごろから考えられていましたか? 「脚本を書き始めた時に、自分がわからなくなるってどういう状況があり得るのかな。と考えたんです。でも、これは最初から出てきましたね」 ―――自分が気にせず描いたものがSNSで広まり、意図しない解釈や考察が付け加えられるといった現象が見受けられます。本作には現代社会に対しての皮肉が込められているように感じました。 「それは確かにあります。映画を作っていても、自分が意図していない方向に拡大解釈されることがあります。好意的に解釈してくれることもあれば、まったく逆の悪い方向で認識されることもある。私は意見をあまり見ないようにしていますが、SNSの怖さは、どの世界にも存在していると感じますね」 ―――数々のヒット作を打ち出してきていますが、そのほとんどが監督のオリジナル脚本です。普段どんなところからインスピレーションを得ているのでしょうか? 「起きているときはだいたい考えています。普段から新聞を読むようにしています。ただ、政治欄よりも、人々の投稿が集まる『声』のようなコーナーを読むことが多いです。そこに書かれている一般の方々の意見や感想に興味があるんです」