放送作家・鈴木おさむは、なぜ辞めることを決意できたのか? BAD HOPの冠番組で再び目にした“奇跡のよすが”と、テレビドラマ界に残した爪痕
「離婚しない男」のベッドシーンは、なぜ笑えるのか?
––––以前、鈴木さんは「社会から認められていると感じたことがない」と話されていたので、作家業引退宣言には少々驚きました。実は、まだやりたいことがあるんじゃないでしょうか? 小説や脚本も書かせてもらっていますが、自分はやっぱり放送作家です。なんとなくですが、物書きとして一番は小説家、次が脚本家、その下が放送作家という序列があるように感じていて。その点で、コンプレックスをずっと抱いていたんです。 放送作家としてヒット作に恵まれたとしても、バラエティ番組は「みんなの仕事」。「これが自分の作品だ」とは言いにくい。一方、小説は作品として自分にコピーライトがつく。 もちろん脚本も創造力が大事ですが、やっぱり原作が一番です。僕は脚本も書いてきましたが、初めて担当したドラマ「人にやさしく」(2002)から、長いこと手応えを感じられないでいました。 ––––手応えがないと言いながらも、「引退することに悔いはない」と言い切られているのはなぜでしょう? 爪痕は残せたのかな、と思えたからかもしれません。ちょうどSMAPが解散したあとに放送が始まったドラマ「奪い愛」シリーズで、やっと自分なりの解を見つけることができたような気がしています。 ––––同シリーズは昼ドラのような強烈な展開に笑いが混ざった世界観で、中毒者が続出したように思います。 くだらないことを、クソ真面目にやるとおもしろい。これを「奪い愛」のときに発見しました。そんな自分の作風を「笑ってはいけないドラマ」と勝手に名付けているんですが、視聴者がツッコミたくなるようにしたい。とはいえ、おもしろいがメインになってしまうとコメディに見えてしまうので、あくまでもサスペンスのような演出に徹しています。 ––––最後の作品となったドラマ「離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―」は、廃業宣言をしたからこそ振り切れたそうですね。 「離婚しない男」は企画が立ち上がったときに、テレビ朝日さんから「ベッドシーンも含めて挑戦したい」というオーダーがありました。これまでだったら「今の時代に描けるのか?」「炎上しないか?」「不快に思う人はいないか?」とかいろいろ躊躇していたと思いますが、「もういいや、辞めるし」と吹っ切れました。 とにかく“昭和の香り”を漂わせたかったんですよね。当時の作品に漂っていた色気とか「見てはいけないものを見てしまっている感覚」を、作家業の最後に作ってみたかった。今の時代で、どこまで作れるのか挑戦してみたいという気持ちもありました。 ––––ベッドシーンが多いものの、いやらしく見えないような気がします。 コメディで包んでしまえば、ベッドシーンが生々しくなく描けるんだと思います。もちろん、色っぽさはある程度大事だとは思うのですが、生々しすぎると役者さんにもストレスがかかる。視聴者を惹きつけるのも大事ですが、まずは現場で役者さんが挑みやすいようにしたかったんです。 演じるときに「これはコメディなんだな」と感じられれば、役者さんも少し肩の力が抜けるような気がしています。際どいシーンもセリフがあまりにもくだらなすぎると、おかしいでしょう? ––––役者さんの怪演ぶりも話題になっていますね。 作品が話題になって、演者さんたちにも還元できればうれしいですね。ありがたいことに「笑ってはいけないドラマ」は配信とすごく相性がいいようで、「離婚しない男」はテレ朝の番組で歴代トップの再生回数になったそうです。 ––––コンプレックスが昇華できた、ということでしょうか? 完全に昇華できたわけではないですが、この前、テリー伊藤さんからも「ドラマのフォーマットをひとつ発明したね。きみにしか作れない世界観だよ」と褒めていただいたんです。それが、すごくうれしかった。 思えば「SMAP×SMAP」のコントも、くだらないことを大真面目にやるスタンスで作っていたんですよね。あのかっこいいメンバーが、すごく真面目にコントをやっているからおもしろい。 もしかすると「笑ってはいけないドラマ」は「SMAP×SMAP」の延長線上にあったのかもしれません。放送作家をやっているうちに身についたスキルだったと思うと、感慨深いです。そう考えると、改めて自分の作家人生に悔いはありませんよ。 文・インタビュー/嘉島唯 写真/山田秀隆