フォスター・ザ・ピープルが語る、恐怖にとらわれない大切さ、自由を求めた緻密なこだわり
伝説的なスタジオを選んだ理由
ーサウンド作りについても聞きたいのですが、アルバム全編を通して生楽器の演奏を大幅に入れて、音のレイヤーを作っていますよね。ストリングスの美しさも素晴らしいし、フルート、ホーン、トランペットの演奏もありますよね。今回はどういう音楽の旅を経て制作をしたのですか? とにかく楽しみたかったんだよね! 「Glitchzig」という曲では友達のステュワート・コールを呼んでいるよ。この曲ではアブストラクト・ジャズのソロを入れたくて、ステュワートにトランペットをプレイしてもらったんだ。他の曲ではジェイコブ・セスニーを呼んで、ホーン、サックス、フルートをプレイしてもらっている。その制作をしている時の僕は、自分が若きジョン・コルトレーンを見ているマイルス・デイヴィスのような気持ちになったよ。ホーンのパートは僕が書いているんだけど、フルートの演奏はインプロビゼーションだ。ジェイコブがホーンを録る準備をしている時、彼のオリジナルのスタイルはもうすぐ世に出て注目されることになるだろうと確信したね。レコーディングの終盤ではカルテットを2組呼んで、ストリングスのすべてを録音した。ストリングスの録音はフランク・シナトラも使っていた、LAのEast West Studiosの大きなルームで行ったんだ。アルバムを聴けば、大きなルームに演奏者たちがいるのを感じられると思うよ。そういう音響上のまとまりもこのアルバムでは形にしているんだ。 ーこのサウンドをこれからのライブでどう表現するのかが非常に気になりますね。 そこは僕もやってみないとわからないところだね(笑)。もうすぐライブのリハーサルが始まるんだけど、バンドのメンバーには今まで一緒にやったことのないジャズ畑のプレイヤーもいるんだ。僕にとっては今までで一番音楽的なライブになると思うよ。曲本来の構成をベースにしながらも音楽の形式を壊していきたいんだ。それをライブでやるわけだから、どのライブも違うものになるはずだ。ジャズのインプロヴィゼーションには、プレイヤー同士がお互いを見ながらプレイするテンションの高さがあるよね。音楽的にこれ以上にエキサイティングなものはないと僕は思っていて。そういう要素をフォスター・ザ・ピープルのライブに取り入れるのが面白いんだよ。僕たちの音楽にはフック、メロディ、ポップな要素があるから、人々がシンガロングしたり、ダンスしたりできる。でもそういう曲をさらにディープなところまで持っていくこともできるんだ。そういうことを音楽的にトライできるわけだから、今からワクワクしているよ。 ーLAのEast West Studiosの話も出ましたが、このスタジオはザ・ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』やマイケル・ジャクソンの『スリラー』などで知られる伝説的なスタジオですよね。このスタジオを選んだ理由は何ですか? 『ペット・サウンズ』は僕のオールタイム・フェイバリットのアルバムなんだ。それにここはレッキング・クルー(注:60年代~70年代にLAを拠点に活躍していたスタジオ・ミュージシャン集団)が数多くのレコーディングをやってきたスタジオでもある。しかも僕の家のすぐ近くにあるんだ。それでこのスタジオですぐにでもレコーディングをやりたいと思ったんだ。East West Studiosは以前にも使ったことはあるんだけど、『ペット・サウンズ』と同じルームではなかった。それで『ペット・サウンズ』と同じルームで制作をしてみたんだけど、『ペット・サウンズ』のスピリットを感じられて、とてもスペシャルな感覚になったね。フロアにしても当時と同じままなんだ。スタジオには傷とか穴もたくさんあってね。ハル・ブレインがドラムをセッティングしている姿とか、キャロル・ケイがベース・アンプを運んでいる姿とかが目に浮かんだよ。ミュージシャンたちがお互いに近い距離で演奏をして、歴史上アイコンとなった音楽を制作している、そういうスピリットを感じられたんだよね。 ー今後の予定を教えてください。来日の予定はありますか? 日本にはすぐにでも行きたいね。日本は大好きなんだ。だから日本でライブをやることは約束するよ。もうすぐリハーサルが始まるから、ライブをどうやるのかはそこで決まってくるはずだ。すでに決まっている年内のライブは、10月に行われるAustin City Limits Music Festivalになる。 ー前回の来日は2017年ですから、もう7年前になりますね。 そうそう。ちょうどそれを考えていたところだ。フォスター・ザ・ピープルは2010年の初めにスタートして、そこから7年後が2017年だ。今回のアルバムも前作からは7年後のリリースだ。この「7年」という周期は不思議な感じがするよ。最初の7年とその後の7年で、僕は全く違う人間になった感じがするんだ。人生は大きく変わったからね。でも素晴らしいのは、歳を重ねるごとに常に成長、変化できていることなんだ。今、人生のこのチャプターで新たな一歩を踏み出して、この経験が何であろうとオープンでいられることが楽しいんだ。 ー新たな7年周期の始まりという感じですね。 まさに今感じているのはそういうことなんだ。 『Paradise State of Mind』 フォスター・ザ・ピープル ワーナーミュージック・ジャパン 配信中
Toshiya Ohno