日本代表・遠藤航がハマっている腕時計「他の選手がつけていなくて、俺らしい」
答えは存在しない。だから考え続ける
そんな遠藤は、気に入ったことがあると徹底的にそれを追求したくなる性格だ。 例えば、ある年のシーズンオフにシャンパンを口にした。そのあまりの美味しさに驚いた遠藤は、どの銘柄がどんな味かといったうんちくをひと通りため込むと、ついにはフランス・シャンパーニュ地方にまで足を延ばしたという。 一方で、自分の眼鏡にかなわないものにはまったく興味を示さない。ある時、気心の知れた仲間とお薦めの映画や本の話で盛り上がっていた後、遠藤は最後にこう漏らした。 「でも、俺、ひとつも見ないんだろうな――」 皆が一斉に大笑いした。誰もが「確かに、遠藤は見ない」と思 ったのだ。 自分が欲しいもの、求めているもの、目指すことがはっきりと選別できる。それが遠藤の能力である。 「なんでなんですかね(笑)。興味があるものはとことん追求したいんですけど。ないものに対しては本当に見向きもしないですね」 サッカーに対してはどう思っているのか。 「サッカーは好きですよ。うまくなるのは嬉しいし。ただ、たまに思います。なんでこんなきついことをし続けているんだろうって(笑)」 今シーズンのリバプールでの活躍について、遠藤自身はこう振り返る。 「試合に出られればある程度やれるとは思っていました。他の選手たちにはない経験もあったから。ただ、イメージと違ったところもあったし。クルマの中や寝る前とか、いつでも何が足りないか考えて、ああしよう、こうしてみようって常に考えていましたね」 それこそが遠藤の強みであり成功の秘訣だ。 「考えることは嫌いじゃないので。むしろそれが大事。答えはないんです。いつもその場、その状況における『最適解』を探している感覚です」
カタールW杯が終わってから時計について徹底的に調べた
凝り性の遠藤がたどりついた答えのひとつが、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計だ。 「カタールW杯という目標だった舞台にも立てた。ひと区切りとして時計を買おうと思ったんですよね。代表のメンバーも、それぞれこだわりの時計を持っていたので自分も何か、と」 一度決めたらのめり込む。国内外問わず、徹底的に時計について勉強したという。 そこで見つけた遠藤にとっての最適解が、ヴァシュロン・コンスタンタンだった。 「調べるほどその技術のすごさや歴史の重みを感じた。他の選手があまりつけていないブランドだったのも俺らしいかな、と思って。まあ、単純にカッコいい! と思ったことが一番ですけど(笑)」 時計を買うため、2022年のオフに初めて銀座本店に足を運んだ。 「『オーヴァーシーズ』のクロノグラフが欲しいと思って行ったんですけど、そこで紹介してもらったのがトゥールビヨンのモデル。『いい! 』って思いましたが、さすがに即決はできませんでした」 その値段に、さすがの遠藤も家族の顔が浮かんだ。つかの間のオフ、沖縄旅行中は「ずっと、時計のことばかり考えていた」と言う。 結局、購入を決めた。初めて腕に巻いたのは半年後の翌年6月のことだ。 「つけた時は、嬉しかった。不相応かもしれないですけど、自分らしい選択だったというか。でも実は、最初に欲しかったクロノグラフもそのオフに買って、愛用しています」 リバプールに移籍したのはその約2ヵ月後。以降、遠藤が持つヴァシュロン・コンスタンタンの時計は、イギリスの時間を刻み続けている。それは、常識を覆すキャリアの「時計」である一方で、日本サッカー界の「時計の針」を正しい方向に進め続けているのだ。 遠藤航/Wataru Endo 1993年生まれ。2010年に湘南ベルマーレに加入後、浦和レッズを経て海外に。ベルギー、ドイツを経て、現在はプレミアリーグの名門・リバプールの中心選手として活躍。1対1の強さに定評があるMF。サッカー日本代表のキャプテンも務める。著書に『DUEL』などがある。
TEXT=黒田俊 PHOTOGRAPH=峯岸進治