〈奥能登豪雨〉「一人にせんといて」「すまんな」 門前・田中さん 中屋トンネル周辺、土砂崩れ巻き込まれ
輪島市の国道249号中屋トンネル周辺で発生した土砂崩れに巻き込まれ、死亡が確認された田中松櫻(まつおう)さん(81)=輪島市門前町西円山=は、雨脚が強まる中、妻伊紗保(いさほ)さん(77)の制止を振り切って外出し犠牲になった。しばらくしても帰ってこない夫が倒れているのを自宅近くで見つけた妻。「一人にせんといて」。そう呼び掛ける声に「すまんな」「悪かったな」とか細く答えた田中さん。それが最期のやりとりになった。 伊紗保さんによると、21日午前9時15分ごろ、田中さんは降りやまない雨に「ちょっと見てくるわ」と外の様子を気にしだした。心配になった伊紗保さんは「危ないから行ったらダメや」と引き留めたが、そのまま白いヘルメットをかぶって出て行った。 自宅は山沿いを縫う国道249号そばにあり、雨脚はどんどん強まる。伊紗保さんは家の中から土砂が崩れる様子も目撃した。それでも「お父さんはどこかで雨をやり過ごしていると思っていた」という。昼すぎになっても帰ってこない田中さんを捜そうと家を出ると、すぐに見慣れたかっぱを着て倒れている男性が目に入り、言葉を失った。 田中さんは土砂に巻き込まれてか、足にけがを負い、呼び掛けてもなかなか返事がなかった。「だからダメやって言ったんに」「一人にせんといて」。伊紗保さんの声に田中さんはようやく「すまんな」「悪かったな」と言葉を絞り出すと、そのまま反応がなくなったという。 田中さんは車庫に運び込まれて一夜を過ごし、翌日夕方にヘリで搬送された。