声量の低下やかすれなど、声の老化は健康や生活の質にも影響、治療法や自分でできるケアは
治療が必要になる前にできるセルフケア
このように治療法は色々とあるものの、声に関する問題の多くははじめから避けられる。「われわれは、声についても体のほかの部分と同じように考え、ケアする必要があります」とカーティス氏は言う。そして意外なことに、声を守るうえでとりわけ効果的な方法の中には、口や喉とはほとんど関係がないものもある。 年齢を重ねても活発で健康的な暮らしを送ることは、筋肉量や筋力、スタミナを維持し、呼吸系にも良い影響を与える。口の中を健康に保てば、唾液や粘膜の問題を未然に防ぐことができる。 声の専門家らはまた、栄養と水分補給の重要性を強調しており、高齢者には水をたくさん飲み、細胞機能の維持を助ける健康的な食事をとり、室内では加湿器を使うよう勧めている。そして、喫煙は声に悪影響を及ぼすだけでなく、声を発する器官そのものに致命的ながんを引き起こす可能性があるという点で一致している。 望ましくない声の変化による心理的な影響が、別の健康問題をもたらすこともあると、カーティス氏は言う。「自分の声に変化を感じ、それが社会的な活動への参加にも影響を及ぼすと、その人は徐々に社会との関わりを失い、気分が落ち込んでしまうことにもなります」。そうなれば、体を動かす機会が減り、孤立や衰弱が進み、生活の質が低下し、健康までが脅かされる可能性がある。 声の変化をありのままに受け入れることが、解決の一助となることもある。2022年4月に学術誌「Logopedics Phoniatrics Vocology」に発表された研究では、負の烙印を恐れたり、加齢に伴う声の変化を受け入れられなかったりする高齢者は、効果的な介入の機会を失う場合があることが示唆されている。 一方で研究者らは、加齢に伴う声の「障害」の多くを、単に時間の経過がもたらす現実としてとらえ直す試みを進めている。そして実際、高齢者にも、そうした考えを持つ人が増えているようだ。発声障害を持つ高齢者の最大80%が治療を行わない選択をしていることが、調査によって明らかになっている。 ただし、助けを求めることをためらわないでほしいと、カーティス氏は助言する。声に大きな、あるいは急激な変化があった人や、個人的または社会的な活動や仕事に支障が出ていると感じる人は、医師に相談すべきだろう。「声は非常に個人的なものです」と氏は言う。何歳であろうとも、「患者自身によく関わるものなのです」
文=Erin Blakemore/訳=北村京子