派閥資金問題で処分も遠い幕引き 苦境の首相、「解散」と政策に暗雲
自民党は2024年2月に公表した調査で、派閥の政治資金パーティー収入の還流問題を巡り、現職国会議員82人と支部長3人の計85人に政治資金収支報告書の不記載があったと明らかにしていた。 【関連画像】今後の主な政治日程 岸田文雄首相の判断で、今回の処分対象者はこのうち18~22年の5年間で収支報告の不記載が500万円以上あった安倍、二階両派の議員ら39人となった。 安倍派座長の塩谷立氏、参院安倍派会長だった世耕弘成氏には安倍晋三元首相がパーティー収入の還流中止を指示した後も対応を取らなかった責任は重いとして離党勧告を科した。事務総長経験者の下村博文、西村康稔、高木毅の各氏は党員資格停止処分とする一方、萩生田光一、松野博一、二階派事務総長だった武田良太の3氏は1年間の党役職停止に。首相と次期衆院選不出馬を表明した二階俊博元幹事長は処分対象外となった。 岸田首相が4月10日の日米首脳会談前の処分にこだわったのはこの問題に区切りを付け外交で局面の転換を図るためだ。だが、安倍派で資金還流が継続した経緯などの実態解明は進んでいない。処分対象・内容の基準が不透明なことや、首相や二階氏が不問に付されたことに党内外から批判が相次ぎ、処分を決める過程で自民党執行部内の対立も露呈した。 「事実解明と処分が遅れて世の中の期待値が上がり、多くの人にとって不満が残る結果になった」。自民党の閣僚経験者はこう漏らす。 逆風が強まる中、政権幹部は再発防止の政治資金規正法改正に論点を移そうとする。首相は自身の責任を巡り「政治改革の取り組みを見ていただき、最終的には国民、党員に判断してもらう」と語る。 与野党は衆参両院に政治改革特別委員会を設置して規正法改正案の議論を始める。野党は引き続き真相究明が不可欠だとして、この委員会で首相らを追及する構えだ。 公明党と野党各党は違反時に会計責任者だけでなく議員も処罰対象となる「連座制」の導入など法改正の具体的な方向性を示しているが、自民党内の意見集約はこれからだ。第三者監視機関の設置や政策活動費のあり方なども検討される見通しだが、日本大学の岩井奉信名誉教授は「特に企業・団体献金の見直しを巡り慎重な自民党と禁止を求める立憲民主党など野党との隔たりは大きい。実効性の高い内容に着地するのか見通せない」と指摘。「与野党協議は長引きそうで、当面は内閣支持率の回復につながりにくいだろう」と見る。 4月の訪米や賃上げ、6月の所得税・住民税減税などで支持率を回復させ、衆院解散・総選挙を狙うのが首相の基本戦略だ。だが、4月28日投開票の3つの衆院補欠選挙で自民党は東京15区と長崎3区で独自候補を出さず、島根1区も厳しい選挙戦が予想される。 9月に自民党総裁選を控え、衆院は25年10月に任期満了となる。公明党幹部は25年夏の都議選・参院選や任期満了に近い衆院選に反対している。自公関係者の間では自民党総裁選で「選挙の顔」を替えて年内に衆院解散・総選挙を行うシナリオが有力視される。菅義偉前首相は周辺に「4月の補選後に党内の空気は変わる。自分も動こうと思う」と語っている。