石破政権、綱渡りの再出発 命運握る部分連合 野党、参院選へ攻勢〔深層探訪〕
第2次石破内閣が11日、霧の中でスタートした。衆院選で少数与党の状態に追い込まれ、予算案や法案を国会で通すには野党の賛同が欠かせない。石破茂首相は国民民主党の協力を当て込むものの、来夏の参院選を意識する野党各党が攻勢を強めるのは必至。一つのボタンの掛け違いでも政権の命運を左右しかねず、綱渡りの様相を呈する。 【写真】あいさつ回りで立憲民主党の野田佳彦代表と握手する石破茂首相 ◇「法案を絞れ」 「野党の意見を謙虚に承り、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」。首相は11日、国会の首相指名に先立ち国民民主の玉木雄一郎代表、立憲民主党の野田佳彦代表と相次いで会談し、政権運営への協力を低姿勢で求めた。 12年ほど続いた「自民1強」の政治情勢下、法案や予算案は政府・与党内でまとめれば、国会でそのまま成立するケースがほとんどだった。だが、自民、公明両党が衆院の過半数を失った以上、今後はオープンな与野党協議が避けて通れない。 自公で大半を占めていた衆院の常任委員長ポストは、国会攻防の主戦場となる予算委員会を含めて野党が七つを握った。「法案を絞り込め」。審議が格段に険しくなるとみて、自民は早くも各省庁にこう指示を出した。経済官庁幹部は「政府内の政策議論はほとんど停滞している」と漏らす。 ◇「一野党に…」 何とか政権運営を図ろうと、首相や自民の森山裕幹事長らは政策ごとに協力を得る「部分連合」に傾斜し、主なターゲットに国民民主を据えた。自民寄りの姿勢が目立った日本維新の会が落ち目の政権と距離を置く中、選択肢は限られる。 「政策が似ている」。首相は周辺にこう語る。衆院で野党第3党の国民民主の要求に従い、財源の当てもないまま、大幅な税収減を伴う「年収103万円の壁」見直しに着手した。 もっとも、国民民主を支える連合の内部には、玉木氏の「ゆ党」路線に批判的な声がくすぶる。くしくも11日には玉木氏の不倫問題が発覚。政権幹部の視線は一斉にその去就に注がれた。玉木氏続投は即日決まったが、首相官邸関係者は「一野党のスキャンダルに政権が浮足立つ構図だ」と基盤のもろさに懸念を示した。 ◇未知の領域 自民の衆院選大敗は、派閥裏金事件に対する有権者の怒りを改めて浮き彫りにした。「みそぎ」は済んでいないとみる立民は参院選に向け、この問題で引き続き攻勢を掛ける方針。野田代表は11日の首相との会談で「企業・団体献金廃止や政治資金の世襲禁止を柱とする考え方はまとめている」と述べ、今月下旬にも改めて召集される臨時国会に法案を提出する構えを見せた。 企業・団体献金禁止には維新や共産党が足並みをそろえており、政治資金規正法再改正の焦点になる。だが、自民の場合は資金面で大打撃になるのは必至。ある中堅は「それだけは手を付けられない」と語る。首相は野田氏との会談後の両院議員総会で年内の再改正を打ち出したが、企業・団体献金には触れなかった。 野党も一枚岩ではない。衆院の首相指名選挙で維新と国民民主は決選投票を含めてそれぞれの党首に一票を投じ、立民と一線を画した。各党の利害得失が絡み、国政は今後どの方向に進んでいくか見通せない。 来年1月からの通常国会は2025年度予算案審議が最初のヤマ場。首相は国民民主との連携を軸に乗り切りたい考えだ。「未知の領域に突入した。だが、この状況が長く続くとは思えない」。自民幹部はこううめいた。