安達祐実の覚醒っぷりが凄まじい…初回から脚本のクオリティに驚かされたワケ。NHKドラマ『3000万』第1話考察
安達祐実の快演と実力派俳優たちの競演
きっとこの先もたくさんの仕掛けを用意しているのだろうし、それは複数の脚本家がアイデアを持ち寄って一つの物語を完成させるこのドラマならでは。また弥重が手がけた第1話はクライムサスペンスでありながら、祐子と義光のくすりと笑えるウィットに富んだ会話劇が光っていたが、残り3人の脚本家がどんな作風を見せるのかも楽しみだ。 また本作には実力派の俳優陣が揃っており、物語への没入度を高めてくれる。特に主人公・祐子を演じる安達祐実の覚醒っぷりが凄まじかった。最初はつねに他人の顔色を伺ってばかりな少し弱々しい母親に見えた祐子。だが、大金を手にして気が大きくなった祐子は、いつもは言いなりになっているパワハラ上司の初山(持田将史)に毅然とした態度で接し、事故の現場で遭遇した強面の男にまで噛みついていく。 小柄で愛らしい容姿でありながら、とてつもないパワーを感じさせる安達にぴったりの役柄と言えるだろう。3000万を手に我慢してばかりの人生に別れを告げるラストで高笑いする姿には「お金はこんなにも人を変えるのか」と思わずゾッとさせられた。 一方、生真面目すぎる祐子とは対照的に義光はちゃらんぽらん。もともとはミュージシャンとして活躍していたが一発屋で終わり、現在はさほど稼ぎもないのに全く焦るそぶりもない。デリカシーもなく、こういう旦那がいたら嫌だなと思うキャラクターを青木崇高が体現している。だけど、不思議と完全には憎めず、近くにいたら呆れつつも許してしまいそうな絶妙な差し加減の演技は流石の一言。 ほかにも、NHKドラマ10『大奥』(2023)で女将軍・家定を好演し、話題となった元宝塚娘役トップの愛希れいか演じる刑事の野崎、映画『正欲』(2023)、『朽ちないサクラ』(2024)と近年映画での活躍が目覚ましい森田想演じる事故相手の女性・ソラ、今年1月期から連ドラに引っ張りだこの萩原護演じる犯罪組織のメンバーで大学生の長田など気になるキャラクターばかりだ。 倹約生活を送っていた家族が突如、本来は自分たちのものではない3000万を手にしたら、どうなってしまうのか。その行方を固唾を飲んで見守りたい。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子