やっと政策活動費は廃止されたがデータベース化は骨抜きに 真の「熟議の政治」には自民党内の熟議が必要だ
補正予算案と政治改革関連法案が審議される臨時国会が大詰めを迎えている。 17日には補正予算案が参院で可決・成立し、同じく17日には政治改革関連法案が衆院を通過した。 自公連立政権が少数与党となったことで波乱含みになるとみられていた国会だが、予算案には日本維新の会と国民民主党が、政治改革関連法案の方は、立憲民主党など野党7党が提出した政策活動費の廃止法案に自民党や公明党も賛成する形で、一言でいえば無難に衆院を通過した。 発足当初から厳しい局面が続いていた石破政権ではあったが、今国会では時には与党が野党側の要求を呑み、時には野党側が提出した法案に与党が賛成する形で、少なくともここまでは無難な国会運営が行われていると言っていいだろう。 また予算委員会では石破首相がほとんど官僚の作成したカンペを見ずに野党側の質問に淀みなく答弁をするシーンが多く見られ、首相に対する評価も多少は上がってきているのかもしれない。 しかし、それでは本当に石破政権が標榜する「熟議の国会」が実行されているかといえば、実態はそれとはほど遠いと言わなければならない。確かに首相自身は1つひとつの質問に対し自分の言葉で丁寧に答弁をしている。一見、熟議が交わされているかのようにも見える。しかし、それでは熟議の結果、お互いが納得する形で何か大きな妥協が引き出されたことがあったかと言えば、今国会でそのような場面は1つもなかったと政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。 答弁は丁寧でも、熟議の結果、新たな妥協が生まれたり決断が下されるような場面がまったくなかったと言うのだ。 例えば選択的夫婦別姓については、元々別姓に前向きだった石破首相が持論を封印して、自民党の保守派に配慮した答弁を繰り返していた。話しぶりは丁寧ではあるが、中身は歴代の首相と何ら変わらない内容が繰り返されるばかりだった。 結局のところ、国会の場で与野党間で熟議が交わされることに何らかの意味があるとすれば、議論を掘り下げた結果、片方がもう片方を論理的に説得したり、あるいは双方が歩み寄ることによって新しい結論が導き出されなければならない。しかし、石破首相が党内の保守派に配慮して野党の主張に一歩も譲らない答弁を繰り返したのを見ると、本当に必要なのはまずは自民党の党内で熟議が行われることだったのではないか。党内をまとめることができない首相がいくら熟議を装っても、それはパフォーマンスの域を出ないものに終わってしまう。 自分の言葉で大いに語る石破首相の振る舞いは、歴代の総理の多くが国会でも記者会見でも官僚の作成したペーパーを棒読みするのが当たり前になっていた日本の政治文化の下では、当初は国民の目に新鮮に映るかもしれない。しかし、首相が党内世論をまとめられなければ、今は評判の石破首相の熟議スタイルも早晩、底が見えてくるのではないか。 また、今国会の最大の争点だった政治資金規正法の改正案の中で、政策活動費の存廃については、当初あの手この手を弄して何とか抜け穴を残そうとする自民党の努力の甲斐もなく、すべての政治団体から渡し切りの政策活動費は例外なく廃止されることとなった。それ自体は評価できる。 しかし、政策活動費と並び石破政権の政治改革のもう1つの柱だった政治資金収支報告書のデータベース化の方は、法案の中に実効性のある改正案を入れることがまったくできなかった。 石破首相が会見や所信表明演説でぶちあげた「収支報告書の内容を誰でも簡単に確認できるデータベースの構築」は、衆院を通過した法案ではその対象が政党と国会議員関係政治団体に限定され、政党支部やその他の政治団体がこの対象にならなかった。はっきり言って、ガラス張りとはほど遠いものになってしまった。 政党や国会議員関係政治団体のデータだけがデータベース化されても、そこに資金を出した側のデータがデータベースに組み込まれていなければ、入りと出を同時に照合することができない。つまり、そのやり方では今回の政治改革の発端となった裏金の存在を明らかにすることさえできないのだ。 ちなみに全国に6万近くあるすべての政治団体のうち、政党と国会議員関係政治団体というのは3,000程度しかない。つまり、全ての政治団体の5%程度の団体しかデータベース化の対象ではないということだ。 残念ながらデータベース化については、与党案はデータベース化の対象が政党や国会議員関係政治団体、そして現在3つしかない政治資金団体に限定されており、野党案もそれにいわゆる派閥を加えただけのものなので、どちらの案が採用されても、真のデータベース化とはほど遠いものにならざるをえないのだ。 石破首相や自民党の政治改革本部の事務局長を務める小泉進次郎衆院議員は、企業・団体献金の廃止を迫る野党に対して繰り返し、「自民党は禁止するのではなく、政治資金を透明化することが重要だと考えている」と語っている。データベース化は政治資金透明化の切り札のはずだった。それがここまで矮小化されてしまっては、自民党が主張する「企業献金は廃止ではなくガラス張り化を」の主張も空疎に響く。 政治改革法案はこれから参院に舞台を移す。データベース化については参院で真の熟議が交わされ、最終的にもう少しまともな修正が行われることを期待したい。 24日に閉会を控え大詰めを迎えている臨時国会における石破政権の評価と政治改革関連法案の問題点などを政治ジャーナリストの角谷浩一とジャーナリストの神保哲生が議論した。 【プロフィール】 角谷 浩一(かくたに こういち) 政治ジャーナリスト 1961年神奈川県生まれ。85年日本大学法学部新聞学科卒業。東京タイムズ記者、「週刊ポスト」、「SAPIO」編集部、テレビ朝日報道局などを経て1995年より現職。 神保 哲生 (じんぼう てつお) ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹 1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(ベーシックプラン月額550円・スタンダードプラン1100円)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)