社会人が読書をできなくなる原因? 中学校で刷り込まれた“理想的な本の読み方”
発売1週間で累計10万部を突破した書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆,集英社新書)のヒットは、現代人が抱える「もっと読書をしたいのに読めない」という悩みを浮き彫りにしました。忙しい日々の中で、読書とどのように向き合えば良いのでしょうか。 2024年上半期に人気だった「ビジネス書」TOP5 ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約サービス「flier(フライヤー)」CEOの大賀康史さんにお話を伺いました。
終身雇用の崩壊、新型コロナのパンデミックが、ビジネス書にも影響した
――昨今のビジネス書の傾向について教えてください。 従来のビジネス書は、戦略やファイナンスなど、経営層向けの専門的な内容が中心でした。しかし近年では、一般的なビジネスパーソンが抱える、仕事や人生に関する悩みに寄り添う書籍が大きく増加しています。当社のデータから見ても、『落ち込んだときに前向きになれる書籍』へのニーズが顕著であることがわかります。 さらに、ビジネス書と他のジャンルの書籍の境界も曖昧になっています。メンタルヘルスやフィットネス、子どもの受験まで...多岐にわたるテーマを取り扱うビジネス書が増えています。 ――なぜ、そのように変化しているのでしょうか? ビジネス書の内容が多様化した背景には、社会環境の変化が影響しているのではないでしょうか。 従来は、大企業に勤めれば安定したキャリアを築けると考えられていましたが、近年ではAIなど新しいテクノロジーの登場や、グローバル化などの影響により、終身雇用が崩壊し、リスキリングが求められる時代になりました。 さらに、ここ3~4年では新型コロナウイルスのパンデミックによってリモートワークが普及し、これまで何となく会社に行って、何となく過ごしていた時間を見つめなおすきっかけが生まれました。こうした社会環境の変化が書籍にも影響したのだと考えられます。
ネットで情報が手に入る時代に、ビジネス書を読む意義
――YouTubeやTikTokなど、ネットで手軽に情報を得られる時代です。現代で、ビジネス書を読むことの意義とはどこにあると考えられますか? ビジネス書を読むことは、仕事へのモチベーションを高めることに繋がります。仕事で課題を発見し、ビジネス書から解決策を学び、実際に自分の仕事に活かすという行為はとても前向きなものです。このサイクルを繰り返すことは自身の成長にも繋がり、素晴らしい好循環が得られるでしょう。 もちろんYouTubeでもビジネスに関する情報は得られます。しかし、動画は相手のペースで、受動的に情報に触れることになります。動画を一本見終わっても、情報を整理する時間もなく次の動画が流れてきます。 一方、読書はじっくりと自分のペースで読み、考えを巡らせられるという点に大きな特徴があります。経営者であれば、書籍を読みながら「このアイディアを自分の事業に反映するとどうなるか...」と考え事をすることでしょう。これは主体的に時間を過ごしている証拠ではないでしょうか。 高速で読み飛ばすこともできるし、熟読して考え事をすることもできる。読書は受動的な情報収集の手段ではなく、知見に対してオーナーシップを持った触れ方が出来るのです。