【元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く】体を向けるだけでもアウトに? 時代とともに進化するルール
【山崎夏生のルール教室】
【問】高校野球、春のセンバツの試合でのこと。スクイズを見破られ大きく外された投球を打者は空振り、三塁走者は慌てて元の塁に戻ろうとします。そして、捕手の送球を受け取った三塁手にはタッグされず、三塁審判はセーフと宣告しました。しかし、明らかに3フィート以上は走路から離れていたように見えたのですが、三塁手のタッグ行為がなかったからでしょうか? 動画を見ると確かにグラブを差し出してはいませんが、体は走者に向かっているようにも見えました。 【答】このプレーはちょうどテレビで見ており、塁審は手を広げるか上げるか注目しました。非常に難しいケースですし、時代により判定も異なってくるのです。ルールは進化する、と当欄でも何度か書きましたがまずはその説明から。 かつては走路とは塁間を結んだ直線と解釈されていましたが、実際はその線上で挟殺プレーが行われることなど滅多になく、走者と塁を結ぶ線上で起こるものなのです。よって、2008年以降は塁間を結ぶのはベースラインで、走者と塁を結ぶのがベースパスと使い分けており、「走路」とは後者を指します。 次に、規則上に「タッグ」の定義はあれど(定義75)「タッグ行為」(触球プレー)の明確な定義はなく、漠然とですがボールを保持したグラブあるいは手で、走者に差し出す行為とみなされていました。ただ、タッグを避けようと大きく走路を離れる走者はいわば死に体ですから、その走者をアウトにしようと野手が体を向けるだけでもよいのではないかとなったのです。 そしてMLBでは17年に、わが国でも19年からプロ・アマ合同野球規則委員会により、「ボールを保持した状態の野手がステップしただけで走者のほうを向いた場合でも、たとえ手を差し出す行為がなくとも、アウトにしようとする行為だと審判員が判断できれば、触球行為とみなす」と解釈されるようになりました。これは高野連のHP内にも書かれています。 よって件のプレーで問題となるのはこの三塁手の体が走者に向かっていたかどうか、となります。その動きを判断するのはまさに主観ですから、その基準に個人差が出るのもやむなし。要は誰の目から見ても明らかに走者をアウトにしようという動きを野手が審判に示せればよいのです。ですから、一瞬でも手を差し出す、あるいは一歩でも走者に向かうという明らかな行為を見せることが確実ではないでしょうか。
週刊ベースボール