怖さのなかに笑い&涙ありの最新作『サユリ』が公開!一筋縄ではいかない作品を連発する白石晃士監督の鬼才ぶりを振り返る
押切蓮介の同名漫画を映画化したホラー『サユリ』が本日より公開となった。メガホンを握った白石晃士監督といえば、お決まりに縛られない尖ったホラーを次々と生みだしてきた異才にして鬼才。「停滞しているJホラーをブチ壊す、新時代のホラーを目指しました」とコメントしているように、本作もまさかの方向に突き進んでいく意外な展開に度肝を抜かれること間違いなしの仕上がりとなっている。そんな白石監督がこれまで世に送りだしてきたユニークな仕掛けが詰まった作品と共に、その世界の魅力をここで振り返っていきたい。 【写真を見る】怖いけど、それ以上におもしろい!『サユリ』で発揮された白石晃士監督の鬼才ぶり ■登場人物のブログまで制作!現実との境目を曖昧にする『ノロイ』の試み 長編1作目となった『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』(04)では、黒い幽霊の呪いがもたらす恐怖を、時間軸を遡るトリッキーなスタイルで描き、鬼才の片鱗を感じさせた白石監督。その後、脚光を浴びたのが2005年の『ノロイ』だ。 呪いをテーマにしたドキュメンタリー「ノロイ」を完成させた怪奇実話作家の小林雅文の自宅が全焼し、本人も失踪してしまうという事件が発生。遺された作品も衝撃的な内容のためお蔵入りとなっていたが、それを映画として世にだすため白石監督が追加取材を行い完成させたのが本作『ノロイ』で、映像では様々な呪いの噂を検証するうちに次々と関係者が亡くなっていく様子が映しだされていく…。 という設定のファウンドフッテージスタイルのフェイクドキュメンタリー。アンガールズや飯島愛といった著名人が本人として出演するテレビ特番映像を劇中に挿入するほか、小林のブログや彼の著書を出していた出版社のホームページも実際にネット上に作るなど、嘘を信じさせるためになにかと手の込んだ仕掛けが満載だった。 ■ケレン味たっぷりのスペクタクルが炸裂した“やりすぎ”な「コワすぎ!」シリーズ 大学在学時から自主制作でフェイクドキュメンタリー(『暴力人間』)を作り、キャリア初期には「ほんとにあった! 呪いのビデオ」シリーズの演出を担当していたこともあり、フェイクドキュメンタリーは白石監督の十八番。モキュメンタリーの手法を本格的に取り入れた『オカルト』(09)をはじめ、ももいろクローバー(現:ももいろクローバーZ)を本人役で起用した『シロメ』(10)や、全編をノーカットの長回しに見せる手法を取り入れた『ある優しき殺人者の記録』(14)など、趣向を凝らした作品を次々と生みだしてきた。 なかでも「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズは、2012年にオリジナルビデオとしてスタートすると、シリーズ化し、劇場版が作られるまでに至った人気作。“投稿者から寄せられた怪奇映像を、ディレクターの工藤(大迫茂生)とアシスタントの市川(久保山智夏)、そして白石監督扮するカメラマンの田代の「コワすぎ!」撮影隊が調査するモキュメンタリーだ。 ありがちな心霊ビデオかと思いきやそこは白石監督、やはり一筋縄ではいかないシリーズとなっている。その最大の魅力は、モキュメンタリーでありながら、もはや嘘を信じ込ませようなどとは微塵も思っていないであろうケレン味のある描写の数々だ。 1作目の「口裂け女捕獲作戦」では正統派心霊ビデオ的な恐怖を描きつつも、口裂け女がものすごい勢いで迫ってきたり、撮影隊が口裂け女にまさかの物理攻撃(バット)で立ち向かっていたりと、ただならぬシリーズであることを予感させていく。 陰陽道の力を借りた工藤が五芒星の中心に立って河童を迎え撃とうとするトンデモな描写でファンの心を掴んだ3作目「人喰い河童伝説」、疑似ワンカット風の撮影でタイムループを表現し、さらに異界の存在まで登場した4作目「真相!トイレの花子さん」など、作品を重ねるごとにスペクタクル度はアップ。 怪奇現象の謎と共に工藤の生い立ちの秘密が明かされるなど、シリーズを通じて張り巡らされてきた伏線が徐々に回収され、異界の神の干渉により世界の危機が訪れるという壮大なスケールの話になっていく展開は驚愕。「最終章」では、『オカルト』の主人公である江野祥平(宇野祥平)が活躍するという、白石作品マルチバース的展開まで盛り込まれており、とにかくやりたい放題だった。 大スケールの話に加え、カッとなるとすぐに手が出てしまう傍若無人ぶりが幽霊より恐ろしい工藤の暴力などギャグも満載で、ホラーという枠組みのなかでおもしろいと思うことをとにかくやりまくる、白石監督の気概が込められたシリーズだったと言えるだろう。 ■幽霊を圧倒!?まさかの激アツ展開に感情が揺さぶられる最新作『サユリ』 『貞子vs伽椰子』(16)でも“化け物に化け物をぶつける”というJホラーの真逆ともいえるエンタメ一直線のパワフルな物語で観客を驚かせた白石監督だが、『サユリ』もそんな白石節が炸裂した予想外の展開で観る者を翻弄している。 念願の一戸建てに引っ越してきた神木家を襲う悲劇を描く本作。夢のマイホームを手に入れ、家族7人での生活をスタートさせる神木家だったが、そんな幸せも束の間、どこからともなく笑い声が聞こえる怪奇現象に見舞われるようになると、父の死を皮切りに、祖父、次男、長女、母と家族が次々と命を落としていってしまう。 祖母の春枝(根岸季衣)と2人となり絶望に暮れる長男の則雄(南出凌嘉)だったが、そんな矢先、認知症だったはずの春枝が突如覚醒。祖母の猛特訓で心も体もたくましくなった則雄は、家族の命を奪った少女の霊に立ち向かっていく。 いわくつきの家を舞台にした不穏な雰囲気漂う正統派Jホラー…かと思いきや、家族の命を奪った霊に復讐するというエクストリームな方向へと180度舵を切っていく本作。もちろんこの展開は押切蓮介の原作に沿ってはいるのだが、気合いと暴力で怨霊に立ち向かう祖母の暴れっぷりやおもしろギャグが炸裂する白石監督らしさが満載で、恐怖と笑いが襲いかかるストーリーは唯一無二。生きようとする人間のエネルギーに思わずグッときたりと、感情が翻弄されること間違いなし!鑑賞後は確実に心がアツくなるはずだ。 新作『彼岸の家』の海外映画祭参加支援プロジェクトをクラウドファンディングで立ち上げたり、お笑い芸人のジャガモンド斉藤が始めたYouTube発のモンスターパニック映画企画に参加したりするなど、いろいろな試みを続けている白石監督。今後もどんなぶっ飛んだ作品を生みだしてくれるのか?その活躍に期待したい。 文/サンクレイオ翼