囲碁界一の負けず嫌いが強い理由 ──女流棋士・謝依旻に訪れた転機
謝の決断。ところが眠りから覚めた父は何も言わずに車を走らせた。おそらく、聞いてしまったら娘が囲碁を辞めるとわかっていたのだろう。そしてそのまま囲碁を続けることになった。後にも先にも、謝が本気で囲碁を辞めたいと思ったのはこのときだけだという。 多くの期待を背負って12歳で来日した謝は、14歳4ヶ月という当時の女流棋士最年少記録で入段した。 そこからの活躍は目覚ましい。17歳で初タイトルを獲得すると女流タイトルの最年少記録を次々と塗り替え、女流本因坊6連覇、女流名人6連覇など破竹の勢いで勝ち続けてきた。また男性棋士に対しても引けをとらず、戦闘派の棋風で強豪棋士を次々と打ち破っている。 そんな活躍の中、久しぶりに味わった大舞台での敗北。前向きな謝が、何もしたくなくなるほど落ち込むのもわかる気がする。だがここで終わらないのが謝のすごいところだ。前に進むため、気持ちを切り替えるための手段としてバンジージャンプを選んだ。 飛ぶ直前、自分の人生には悔いがないと改めて思ったという謝。だから躊躇せずに飛べたと言う。そして大きなチャレンジの末に得たものは、「根拠のない自信(笑)」。あのバンジージャンプが飛べたのだから、こんなことで怖がることはない、と気持ちが大きくなったという。
迎えた2014年。女流棋聖戦の防衛戦が始まった。いつもは緊張していても、碁盤の前に座ると緊張が溶けるのだが、このときは緊張が止まらず、自分を抑えるのに必死だった。結果は2連勝で防衛。3月から始まった女流名人戦でも2勝1敗で防衛を決めた。 なぜ謝は強いのか。自分の強みについて聞いてみると、 「簡単に諦めないという気持ちは、もしかしたら人より強いのかもしれません。子供の頃は父が本当に怖くて、負けて帰ったら家は地獄だったので、なんとかして勝たなくてはと思っていました。あの頃本当につらかったけど、今精神的に強くいられるのは父のおかげかもしれませんね」 今度は世界の舞台での活躍を目指す謝。今月25日には中国で行われる3人1組の団体戦に出場する。 (ライター 王真有子)