囲碁界一の負けず嫌いが強い理由 ──女流棋士・謝依旻に訪れた転機
「ほっとして、少し肩の荷が下りました」 3月24日、東京・千代田区の日本棋院で行われた女流名人戦三番勝負第3局。この対局に勝って、2勝1敗で女流名人位の防衛を果たした女流棋士・謝依旻(シェイ・イミン)は、対局終了後に感想をこう語った。 囲碁界最強の女流棋士・謝依旻は負けず嫌いである。そもそも勝負師である棋士は、負けず嫌いの集合体だが、その中でも謝は群を抜いている。対局中に相手を睨みつけたり(本人は無意識とのことだが)、負けた後に人目も憚らず涙したり、負けず嫌いのエピソードには事欠かない。 そんな謝が昨年、久しぶりに大きな舞台で負けた。6期保持していた女流本因坊のタイトル戦を2勝3敗の成績で敗れ、挑戦者・向井千瑛五段にタイトルを奪取されたのだ。対局終了後、控室で泣き崩れる様子が、ドキュメンタリー番組でも放映された。 「負けた日はそれほど実感もなかったのですが、だんだん実感がわいてきて、悔しさがこみ上げてきました。その後、無力感というか、すべてどうでもよくなってしまって」
久しぶりに味わったどん底。どうにかしてこの流れを変えたい。そんな謝の脳裏に浮かんだのが、マカオでのバンジージャンプだった。昨年、他の女流棋士たちと世界戦に出場し、1局も勝てなかった人が罰ゲームとしてやることになっていたバンジージャンプ。そのとき飛んだのは女流棋士の奥田あや三段だった。 「実は自分も飛びたいなと思っていたのですが、そこで飛んでしまうと罰ゲームにならないし。でもいつか機会があったらやりたいと思っていました」 やろうと思ったら、もう止まらない。謝の行動力はすごいのだ。今年1月、台湾に帰った謝は、2日だけあった休みを使って、バンジージャンプのためだけに台湾からマカオへ飛んだ。 「どうしても2014年の最初の対局の前に飛びたかったんです。2013年は棋士人生の中で初めて負け越した年だったので、何かで運を変えたくて。バンジージャンプを飛んだからといって変わるわけではないんですが、やりたいことは全部やってから考えようと思いました」 地上233メートルからのバンジージャンプ。飛ぶ前はさすがに緊張して、自分のこれまでの人生について考えたという。